障害者 権利条約で前へ 元国連委員会議長マッケイ氏に聞く【朝日新聞】

2009/12/05

障害者に対する差別を禁じた国連の障害者権利条約。2006年に国連総会で採択されたが、日本はまだ批准していない。国連の障害者権利条約特別委員会議長を務めた、ニュージーランド外務貿易省特別顧問のドン・マッケイ氏(61)が来日したのを機に、条約が目指す社会について聞いた(及川綾子)

社会の側が配慮 差別なくそう

−障害者権利条約をまとめる過程で、障害者はどうかかわったのでしょうか

 「この条約の交渉過程で障害者団体が『Nothing about us, Without us (私たち抜きに、私たちのことを決めないで)』と発言し、非常に重要な点となった。今まで障害がある人は、自分たちに関する政策決定に関与できず、他の人が決めてしまっていた。障害者自身が参加して条約を作り、交渉過程においても鍵になる役割を果たした」

−障害者は、審議にどのような形で参加したのか

 「障害者団体の代表は、政府代表とともに参加し、平等に発言し、非公式協議の場にも加わった。会議場も車椅子の氷魚が入れるようにし、視覚障害の人には点字や支援機器が使えるようにした。この結果、日常生活で最も切実に問題を感じている人たちの知恵や経験が条約に反映された。 

−条約は締結国に対して、障害のある人への差別を無くすために「合理的配慮」を求めています。どういった配慮なのか

 「新しい概念で、条約交渉に携わったメンバーでも聞いたことがない人がほとんどだった。障害のある人が、他の人と同様に社会生活を送れるよう、社会の方で必要な変更や調整をすることだ」
 「例えば車椅子の人を雇う場合、職場にたどり着くためのスロープの設置が合理的配慮になる。合理的配慮は、個人に着目した概念で、一人ひとりの事情に対応する。障害自体が不利益をもたらすのではなく、適切な対応ができていない社会に問題がある。ただ、零細企業で、経済的に大きな負担になる場合には求めない。

−すでに条約を批准している母国ニュージーランドの障害者施策の取り組みは

 「手話が公用語として認められている。また、入所施設を徐々に解体し、障害者が地域のマンションやアパートで暮らすようになってきた。地域の中で障害のある人たちが暮らすことは、地域社会に全体にとってもプラスになる。

−日本は条約批准に向けて、障害者施策の見直しを始めました

 「条約が求めているのは、障害がある人たちが施策の対象者になるのではなく、施策決定に主体的な役割を果たすことだ。その第一歩として必要なのは、障害のある人たちが『何を望んでいるか』に、社会の方から耳を傾けること。意思の表明にさまざまな支援が必要な人もいるが、障害があるからといって夢や希望がないと決めつけてはならない」

日本の当事者も関与 批准はまだ

 障害者権利条約の交渉過程では、国内12の障害者団体で構成される日本障害者フォーラム(JDF)が、特別委員会に当事者ら200人を派遣した。日本は07年9月に条約に署名したが、国内の法制度を整える必要があるため、批准には至っていない。
 国内の障害者施策の基本理念を定める障害者基本法は改正から5年が経ったため、今年が見直しの時期になっている。JDFは障害者基本法の改正とは別に、障害者差別禁止法(仮称)の創設を求めている。
 また、就労の場での差別を禁じる法制度を整えるために、厚生労働省の諮問機関、労働政策審議会の障害者雇用分科会で議論が進んでいる。採用や労働条件などで障害を理由にした差別を禁じ、障害者が働きやすいような合理的配慮を使用者に義務付けるといった内容が盛り込まれる。
 民主党は政権公約(マニフェスト)で、条約の批准に必要な国内法の整備を行うための「障がい者制度改革推進本部」の設置を掲げている。JDFは、当事者を推進本部の常勤スタッフとするよう要望している。
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障害者権利条約の批准への課題
 世界に障害者は6億5千万人にると推計される。国内で、障害者と認定されている人は人口の6%程度。障害者団体は、身体の欠損や知能指数に偏った認定になっており、発達障害や難病、難聴の人たちが制度のはざまに置かれていると批判している。「合理的配慮をしていなこと」を条約では差別と定義しているが、障害者基本法は差別を定義しておらず、国内法の整備が必要とされている。