「レジで、会議で、誰が何を…」 聴覚障害者につらいマスク、テレワーク

2020/04/22

毎日新聞 2020年4月20日

 新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクやソーシャルディスタンス、テレワークは当たり前になった。しかし、口の動きを読み取ることでコミュニケーションを補ってきた耳の不自由な人たちは困惑している。

 東京都の中園秀喜さん(72)は3歳の時病気で右耳の聴力を失い、41歳で完全に聞こえなくなった。独学で身につけた手話も十分ではなく、読唇や筆談で補っている。マスクを着用している人の声が聞き取らなかったり、中途失聴である程度話せるために筆談に応じてもらえないなど、困っている。都内の松本江里さん(51)は23歳で両耳がほぼ聞こえなくなり、聴導犬と暮らしている。主に読唇でコミュニケーションしており、マスクをしている人には外してと頼んでいたが、今は難しい。いざというときの問い合わせ先が電話番号だけの場合が多く、緊急時に一人だったらどうすればいいのか、と不安を漏らす。

 厚労省の2016年の調査によると、身体障害者手帳を持つ聴覚障害者のうち、手話でコミュニケーションしているのは65歳未満の25%、65歳以上では4.3%。手話ができたとしても、口の動きや表情も手話の一部となるため、マスクをつけたままでは伝わりにくい。

 NPO法人「東京都中途失聴・難聴者協会」副理事長の小川光彦さん(57)は、重度の難聴で言葉の半分程度しか聞き取れず、読唇と筆談で補っている。「ソーシャルディスタンスの2メートルは、耳の不自由な人にとってはコミュニケーションの壁になる。補聴器を使えば聞こえる人も、離れると雑音が混じって聞こえづらくなる」「複数の人がいる場合、マスクをしていると誰が発言しているかわからず、会話の内容を追うことができない」と訴える。小川さんの会社ではテレワークが導入されたが、ビデオ会議では工夫してもほとんど理解できないことがあり、手話と音声、文字の三つがあるのが望ましいと言う。

 中園さんは「耳が不自由と一口に言っても、程度はさまざま。障害の程度や伝えたいことが一覧でわかる指さしボードを設置してほしい」と訴える。