志エコノミー4  障がいは異彩 ビジネスモデルに

2020/01/09

朝日新聞 2020年1月7日

 アートから魅力的な製品 正当な対価を~福祉実験ユニット「ヘラルボニー」社長 松田 崇弥 さん(28)へのインタビュー記事である。

 ヘラルボニー(岩手県花巻市)では、知的障がいのある人が描いたアートをネクタイやハンカチに印刷し、販売している。全国の社会福祉法人などと連携し、作家は20~60代の100人ほど。アートは建設中のビルの仮囲いにも印刷、期間限定の「街の美術館」となっている。

 2015年に花巻市にある「るんびにい美術館」を訪れ、知的障がいのある人のアートに、こんな世界観があるのかと衝撃を受けたのが事業を始めるきっかけだった。双子の兄にアートを生かして何かできないだろうかと呼びかけ、友人らも含む5人で企画を練った。何時間もかけて作ったものが安価で販売されているのは、障がいのある人の製品はこれぐらいの値段という「世の中の常識」があるのだろう。それを逸脱できる金額を示したくて、製法や素材を重視し最高品質のものを作ろうと考えた。歴史あるネクタイメーカーに共感してもらい、税込み価格24300円の製品ができた。3%分を作家に還元している。

 知的障がいのある人の描くものの、繰り返しの表現が面白い。障がいは欠落ではなく絵筆なんだと感じる。知的障がいがあるから見える世界、描ける世界があると信じている。障がいは「異彩」、つまり大きな可能性を持っているんだと伝えたかった。魅力的なものにはきちんとした対価が払われることが正義だと思う。

 ヘラルボニーは現在、社員6人、2020年6月期には7千万円の売り上げをめざしている。知的障がいのある人が働くホテルやカフェも開きたい。客に事前に伝えておけばクレームにならない、そんな寛容な場所を作りたい。できることに目を向けて認めることで生き生きと働ける。障がいのある人がこんなにすごい、と伝えたいわけではない。素敵な作品を描いている、元気に働いている、普通に生きていることが認識されるだけでも、誰も取り残されない社会作りの一助になる気がしている。