吃音のわたし ありのままに生きる  大阪の自助グループ 半世紀余り「悩み語る場」

2019/10/28

朝日新聞 2019年9月19日

  吃音の人が集う大阪の自助グループが半世紀以上活動を続けている。取り組みは先進的で、当事者同士が悩みを語り合い、一人ひとりが自身の特性を受け入れ、前向きに生きる力を取り戻す場だ。

 NPO法人「大阪スタタリングプロジェクト」(東野晃之理事長)は毎週大阪吃音教室を開いている。教室は、1966年「大阪言友会」として始まった。日本吃音臨床研究会の伊藤伸二代表(76)が前年東京で仲間と立ち上げた組織の流れをくんでいる。吃音への対応は専門家の間でも見解が分かれている。大阪吃音教室は「治す努力を一切否定し、吃音とともに豊かに生きる」ことを掲げる。教室では、消極的な思考や思い込みを断ち切るために、集団討議や哲学・認知行動療法などの講義を行っている。東野理事長は「年月はかかるが、吃音を恥ずかしい隠したいと思っていた人も前向きに生きることを目指すようになる」と話している。

 長年教室に通い続け、ありのままの自分と向き合えるようになった西宮市の藤岡千恵さん(43)は22歳の時、新聞で見つけた教室の参加した。でも言葉に詰まる人を直視できず足が遠のいた。不安神経症と診断され、薬を飲むようになった。しかし29歳になり、いつまで薬を飲み続けるのか、「吃音を恥ずかしい、治したいと思うから苦しいのではないか.吃音がある自分を否定している限り逃れられない」と、教室を再び訪ねることにした。はじめは自分をさらせなかった。仲間の「やっぱり恥ずかしいよね」との言葉が腑に落ちた。幼なじみや親友に「吃音がある自分」を打ち明けると、「知っとったよ」「そのままでいいやん」と優しい反応だった。小学校の時に笑った子は音を連発する現象にびっくりしただけかもしれない、バカにされたり、いじめられたりしたわけじゃなかったんだ―。教室で仲間と学ぶうち、過去の苦い記憶の見方も変わった。10年ほど前から教室の運営委員を務める。「吃音は表面的なもの。大事なのは内面ですよ」と、かつての自分のような人に声をかける。今でも派手に音を連発すると「格好悪い」と思うけれど、もう吃音を隠そうとは思わない。「吃音があっても人との関係は壊れない。そのことに気づいたから、どんな時も自分を偽りたくないんです」と、藤岡さんは話す。