障害者と政治 れいわ議員誕生から (上・下)

2019/09/22

朝日新聞2019年9月4日、5日

  今夏の参院選で「れいわ新撰組」から筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者・舩後靖彦さん(61)と脳性まひ・木村英子さん(54)が当選し、国内外から注目を集めている。重い障害がある国会議員の誕生に期待が高まる一方、厳しい声もある。2回にわたって「障害者と政治」について考える。

  (上)

 大阪府の大学客員研究員・河合翔さん(33)は木村さんと同じ脳性まひがあり、生活介助ヘルパーを利用している。2人の立候補を知り、演説をネットで追って「政策を求める側ではなく作る側に立ち、社会を変えようとする発想力と行動力に心を揺さぶられた」と言う。自身も地域生活などをテーマに研究しながら、自立生活や交通バリアフリー化に関わってきた。でも、国会議員なら、当事者ならではの問題提起をし、立法や政策作りに関わり実質的に社会を動かす影響力を持ちうると、「立候補してみようかな」と思い始めている。

  東京都の竹田主子さん(49)は内科医として働いていた6年前、ALSの診断を受けた。絶望を乗り越え、昨年医療コンサルタント事業を立ち上げた。「悲惨に見えても無限に活動できる強いメッセージを2人は発信している。障害者への偏見がなくなることを願います」と注目している。

  「車いすを国会へ」を掲げ1977年に参院議員に当選し、国会内のバリアフリーに尽力した八代英太さん(82)は、「障害のある人とない人が分け隔てられることのない社会に向けた時代の幕開け」と2人にエールを送る。視覚障害がある堀利和さん(69)も参院議員だったが、「社会の縮図である国会での健常者を前提にしたルールが可視化され、変化する風穴に」と期待する。そのためには「市民が関心を持ち続け、支える仕組みづくりも必要」という。

  作家で「れいわ新撰組」の選挙にも関わった雨宮処凛さん(44)は、「『生産性のあるなしで命の価値をはかるな』というメッセージが、不安を抱く多くの人の心に刺さった。生きるための戦いを体現している2人の姿に尊敬の念を抱くのだと思う」と話す。

  (下)

 2人には励ましや期待がある一方で、「重い障害のある人に務まるのか」「特別扱いが過ぎる」などさまざまな批判や懸念の声もある。2人が議員活動中に障害者総合支援法に基づく重度訪問介護の利用を求め、参院などが当面の費用を負担することになると、「議員特権」との声も上がった。大倉沙江・三重大助教が障害がある地方議員に行った調査では、同僚からは「邪魔だ。迷惑をかける」と言われたり、必要な配慮を求めたら「特別扱い」と批判されたりした例もあった。

 国連障害者権利委員会副委員長の石川准・静岡県立大教授(社会学)は、「障害がある人が議員として活動していく上で不可欠な人的サポートを国が提供するのは国際的には当たり前の考え方」と指摘する。原点は2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」の社会モデルの考え方だ。日本でも、2013年に成立した障害者差別解消法など法的整備が進み、どう条約を批准した。条約には、障害者が政治活動に「効果的かつ完全に」参加できるよう締約国に求める条文もある。石川さんは、議員活動中に両議員に介助者をつける費用も、社会の障壁を取り除く考え方からすれば国が負担すべきだと考える。「両議員の誕生は、多様な人と仕事をする環境が国会でも広がり、国会議員が共生社会とは何かを学ぶ機会にもなる大きな一歩」