子と生きる~やまゆり園事件から3年④ 「頼り合う社会」 本気で探るとき

2019/08/02

朝日新聞 2019年7月25日

 障害と出産、子育てを通して、見えてくるものとは――。東京大学准教授の熊谷晋一郎さん(42)に聞いた。

 子どもを産むかどうかを自ら決める権利は誰にでもある、ということは広く認識されるようになった。しかし、実際の子育てとなると「無理なのでは」と捉えられることの方が多い。しかし、子育ての難しさは、障害の有無で判断するものではないと思う。家父を中心につくられた家族を前提にした社会では、1人で生きていくことが「自立」とされ、自立できない人は家族が支える。介護や障害者のケアも家族、主に女性が担わされてきた。私(熊谷)は、そんな「家族」に対して懐疑的だ。

 小児科医として、さまざまな親子に日々接している。家族という小舟の積み荷はパンパンだ。障害の有無にかかわらず、成果や生産性を重視する世界でぎりぎりの状態で孤立して踏ん張っている。家族という「密室」にケアが独占されると、ケアする側は過剰な責任と負担を課せられるリスク、ケアを受ける側は支配されるリスクを抱えることになる。それは、虐待などの原因にもなり得る。

 家族の外で愚痴を言うことや助け合うことは恥だと思い込まされてきたが、今「頼り合う社会」を本気で探るときだと思う。健常者でも孤立して積み過ぎた小舟は沈んでしまう。一方で、障害者が豊かで共働的な子育てをしているのを見てきた。子どもの視点で見ても、親が多くの人に支えられて生きている姿を見るのはよいだろう。自立とは、親以外の他者に、できるだけ多くの頼り先を作ることだから。

 大きくなってくると、安全基地に加えて、人生がどんな方向に転んだとしても「大丈夫」と思える価値観を育める環境が大切。見通しを得にくい現代社会では、多様な人の多様な人生を知り、子どもに希望と見通しを持って解説することがなおさら必要だ。弱さを共有できる社会は、よほど強いのではないか。そんな社会の可能性をともに考えたい。