子と生きる~やまゆり園事件から3年➂ 親になる努力と覚悟 少しずつ

2019/07/27

朝日新聞 2019年7月24日

 九州の宮本真太朗さん(24)と加代子さん(27)夫婦は、ともに重い障害がある。真太朗さんは4歳の時の事故で、高次脳機能障害と右半身まひがある。加代子さんは先天性の脳性まひで、知的障害もある。昨年生まれた長女涼香ちゃんは、両親のもとで育てられると行政が判断するまで、乳児院で暮らしている。両親は「親修行」のため、週3回通う。

 2人は職場結婚した。加代子さんの両親は「障害者同士は、今後の生活が心配」と反対した。両親や支援者と話し合い、何度も親になる意志を聞かれた。「どうしても産みたい。3人家族になる」と2人の気持ちは固かったが、支援者の間でも意見は割れた。「産む権利はある。でも現実的には無理。無責任な支援はできない」と距離を置く仲間もいた。

 障害者総合支援法にもとづき、加代子さんのサポートをする相談支援専門員の松尾芳美さん(38)は、誰かと結ばれ親になりたいと夢を語る障害のある後輩たちの顔が浮かんだ。「諦められない」と応援を決めた。2人の子育てを手伝ってくれるボランティアを募集すると、約40人が手を挙げた。子ども専用に介助者を24時間つける、急な場合の判断は加代子さんの両親が担う、との前提で、児童相談所(児相)などの行政も加わり検討が始まった。

 涼香ちゃんはミルクを飲む力が弱く入院、加代子さんは毎日病院に通った。松尾さんは「意志と成長を見せてくれた」と少しほっとした。夫婦は今、職場と加代子さんの実家に近い一軒家でわが子を待つ。9月には一緒に暮らせる可能性があったが、5月に延期が決まったときには、夫婦は落胆し生活が乱れた。松尾さんは「障害のためにできないことには、私たちが力になる。だから、(自分たちの)体調管理や周囲への感謝など、親になる努力と覚悟を見せて」と語りかけた。2人はその時は「そこまで言われたくない」と反発したが、すぐに生活を改めていった。

 3人で暮らすために、まずは親子一緒に外出する練習を始められるかどうか。児相の判断は9月には出る予定だ。

 長崎市の社会福祉法人「南高愛隣会」は2003年に障害者の恋愛、結婚、子育てを支援する「結婚推進室『ブーケ』」を設置した。出会いの場をつくるだけでなく、交際のマナーや性の知識も伝える。出産希望者には、子育ての現実を伝え、子どもの人生に責任を持てるのかも踏まえた選択ができるよう支援している。出産や子育てを望む障害者を、社会はどう支援していくのか。ブーケの松村真美代表(56)は、「これまでの福祉では避けがちだったが、先駆例を参考にしながら、全国で態勢を整えていく必要がある」と訴える。