子と生きる~やまゆり園事件から3年➁ ありのままに この子も私も

2019/07/19

朝日新聞 2019年7月18日

 特別支援学校で働く同僚と結ばれ、30歳でダウン症の長男を授かった女性(33)。「やさしい子が選んできてくれた」と夫婦で喜んだ。だが「優生思想のシャワー」は強烈だった。義母は「初孫で跡取りなのに。息子を返して」と間接的に離婚を求めた。仕事に理解があった実母も「そんな仕事についたから、こんな子がうちに」と嘆いた。障害の有無とはサクラとタンポポの違いだと思ってきた。「でも世間ではサクラか折れたタンポポ。喜んでもらえない命を作っているこの社会は汚すぎる」。何度も自死の衝動にかられた。同じ障害のある子を育て上げた職場の先輩に「絶対に大丈夫」と笑顔で言ってもらい、出産後初めて力が抜けた。「私が振り回されている価値観は狭いのかもしれない。息子と一緒に歩こう」と思えた。今春、妊娠した。迷いなく夫に言った。「命のことは、ありのままに受け止めるからね」 日々大きくなるおなかをなでながら、夫と「障害って何だろうね」と改めて話した。「やっぱり、サクラかタンポポの違いだよね」。

 医療職の女性(28)は2年前、長女を出産したが、夜泣きをしない、力がなく、おっぱいを自力で飲めない、などから「もしかして」と思った。生後3ヵ月、ダウン症と診断された。夫も医療職。障害や病と向き合う人は身近だ。それでも心のどこかで「向こう側、支援を受ける側に入ったんだ」と複雑な感情がわいた。わが子はいとおしくて仕方ないのに、さみしさを感じてしまう。だが、親の会に通い始めた半年後には開き直った。「マイナス思考は時間の無駄」。比べることをやめた。長女は彼女のペースで成長している。ただ一つ、「先には死ねない」という思いがある。誕生の瞬間、命の始まりから、「終わり」を考えている。夫は第2子を望んでいるが、女性はどうしても首を縦に振れない。「親として面倒を見続ける責任がある。障害のある子2人分は重すぎて背負えない」。出生前診断を受けて、障害がわかった場合、自分には中絶の選択肢はない。「長女を否定することは、今の私にはもうできないのです」

 東京都の小川美樹さん(46)の息子の麦ちゃんは、ダウン症で合併症もあり、医師から1ヵ月持たないと言われた。たくさんの管につながれ、抱くこともできなかったが、日に日に変わる顔つきも成長しているようでいとおしかった。「もう、好きになっちゃったんです」。障害は羊水検査でわかった。生まれる前から、夫の琢也さん(46)と、ネットなどで調べた。多くの人が中絶を選ぶこと、「わかっていて生むなんて」という掲示板への書き込み…。ネガティブな情報があふれていた。麦ちゃんがいなければ知り得なかった事実は、何かのメッセージのように思えた。生後3ヵ月で麦ちゃんは天国へ旅立った。「ダウン症の子を育てたい」。自身の年齢も考え、養子を迎えようと思った。養子縁組では子どもの障害の有無や性別は選べないと聞いていたが、スムーズに話は進んだ。「すごい」「えらい」と言われ、美樹さんの心はざわついた。戸籍上も実の親子になる特別養子縁組で生後4ヵ月の女の子を迎えた。3歳になった娘との日々を、美樹さんはブログにつづっている。。