子と生きる~やまゆり園事件から3年➀  障害ある両親 うちにはうちの幸せ

2019/07/19

朝日新聞 2019年7月17日

 重い障害のある19人の命が奪われた、やまゆり園事件。「障害者は不幸を作ることしかできません」と被告は記した。事件からまもなく3年。命の重さについて改めて考えたい。

 横浜市の和田公一さん(50)・千珠子さん(52)はともに統合失調症で、精神障害者保健福祉手帳をもつ。2006年、千珠子さんは妊娠した時、精神科医に「おろすか乳児院に預けるか選んで下さい」と言われた。家族も「育てられるわけがない」と猛反対したが、授かった命を育てたいという2人の意志は固かった。「子どもの幸せを考えないんですか」という助産師に、公一さんは言った。「幸せかどうかは、成長する中で子ども自身が決めることではないのでしょうか」 生まれた美珠さん(12)は生後12日で乳児院へ移された。産むためには同意するしかなかったのだ。2歳3ヵ月で自宅に戻った。子育てを支援するため、乳児院や児童相談所(児相)の担当者らを交えた会議が年に1、2回、約7年開かれた。

 2人が子育てで大切にするのは、障害のことを隠さないこと。美珠さんが幼い頃から「お父さんとお母さんの調子が悪くなるのは、障害があるからだよ」と伝えた。美珠さんに自分のせいだと思わせたくなかった。学校にも地域の人にも説明した。

 千珠子さんは「動けず、考えられず、話せない発作」状態になることがある。3人はユーモアを交え「アヒル状態」と呼ぶ。心細さの大嵐にのみ込まれないよう必死で助けを求める心境を、水面下で脚をかきまくるアヒルに重ねた。美珠さんは「アヒル状態」の千珠子さんを見た友だちから「お母さん、どうしたの?」と聞かれ、傷ついたことがあった。でも今は「アヒルになっているね」と受け止める。公一さんも喪失感に襲われ、「大丈夫だよね」と何度も話しかけることがある。美珠さんはじっと話しに耳を傾ける。「アヒルの苦労も父の不安もわかんないけど、その分、想像力が増えていく」

 事件後、美珠さんはテレビに映る被告の笑っているような表情に衝撃を受けた。「幸せの基準は人それぞれ。うちにはうちの幸せがあるんじゃないかな」と思っている。