「ディスレクシア」も読みやすい書体、作り上げた活字デザイナーのこだわりとは

2019/07/12

毎日新聞 2019年5月25日

 読み書きに障害があるディスレクシアや弱視の子どもたちが読みやすいよう開発された書体の導入が教育現場で進んでいる。奈良県では小中学校や特別支援学校で使われている。また、複数の出版社が2020年度の小学校教科書に採用する予定。誰にとってもわかりやすいユニバーサルデザインの書体は学力向上も期待できるという。

 今年4月、書体メーカー「モリサワ」の高田裕美さん(55)のツイートが反響を呼んだ。〈(前略)「UDデジタル教科書体」に変えたら、今まで読めなかった子が「これなら読める!オレはバカじゃなかったんだ…」と言って、みなで泣いてしまったという話を聞いた。(中略)「障害は人が持っているのではなく社会にある」ということを実感した。(後略)〉これに、自身や身内に障害がある人たちからの投稿が相次いだ。

 高田さんが、この書体の開発を始めたのは8年前。当時多くのメーカーがユニバーサルデザイン書体を発表していたが、明確な基準はなく、高田さんは「本当に読みやすいものになっているだろうか」と不安になった。弱視教育の第一人者と言われる慶応大の中野泰志教授と連絡を取り、実際に障害のある子どもたちの実態を知りヒアリングするよう勧められた。その後ディスレクシアの子どもも同じ問題を抱えていると知り、この障害でも読みやすい書体を目指すようになった。こだわりの詰まったUDデジタル教科書体が完成したのは2016年6月。弱視やディスレクシアの子どもたちに他の書体とともに示し、最も見やすいとの検証結果も得た。

 UDデジタル教科書体の活用の場は広がり、17年秋には「ウインドウズ10」に搭載された。奈良県教委は約2年前、「入試問題を読みやすい書体にしてもらえないか」と要望があったのをきっかけに導入を決定、昨年から特別支援学校などで取り入れた。同県生駒市教委は2月に市内の小学5年116人を対象に、1分間で文章を読んで正誤を答える問題をUD教科書体と一般的な教科書体とで実施したところ、UDデジタル教科書体の方が正答率が高く、かつ回答数も多かったという。

 障害者差別解消法が施行され、障害者への合理的配慮が求められるようになった。エッジの藤堂栄子会長(66)は、読みやすい書体の開発を評価するが、一方で「障害には様々なタイプがあり、書体さえ変えれば全員が読めるようになるわけではない。教育現場では一人ひとりの症状にあわせて配慮することが大切」と指摘する.