私の視点:障害者への配慮 「安心」を到達点の発想で(新潟県立大准教授・西村 愛)

2019/06/19

朝日新聞 2019年5月2日

 障害者差別解消法の施行から3年経ったが、筆者はこの間、障害の種別や軽重による格差や分断が逆に広がっているような印象を受け、その原因が法の誤った解釈にあると考えている。

 同法で障害者の社会的障壁の除去について、「障害者から(中略)意思の表明があった場合において」「実施に伴う負担が過重でないときは(中略)当該障害者の性別、年齢。および障害種別に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」とされている。何が社会的障壁となるかは障害の種別などで異なるから、どんな配慮が必要かは障害のある人の思いや意見を聞きながら考えることが重要である、と説く条文だ。しかし、筆者は「意思の表明があった場合において」の文言が強調されすぎていて、その結果、意思表示が難しい知的障害や発達障害の人の場合は厳しい状況のままだと感じている。意思表明を「出発点」にする解釈や対応である限り、障害のある人の能力の有無を問うことになり、環境を整えて差別の解消を目指す法の精神に反している、と言う。

 筆者は、障害者からの意思表明を出発点にするのでなく、配慮を受けるとどんな状態に達するのかという「到達点」から発想すべきで、キーワードは安心だと考える。たとえば、障害のある人が安心して働くことができるという「到達点」が明確なら、そのために必要な支援を当事者といっしょに考えて対応を始めるべきだという。その際、欠かせない視点は「共に」と「個人の力を引き出す」で、この2つがそろったとき、障害のある人たちの自分らしい生活が実現するという。