聴覚障害者の子 「いい子」の重圧

2019/04/24

朝日新聞 2019年4月23日

 「聞こえない親をもつ聞こえる子どもの会」(J-CODA)は2月に旧優生保護法を考える勉強会を開いた。「親が手術を受け、生まれてこられなかった仲間がいる。私たちは『不良な子孫』なのか」。CODA(コーダ)は、聴覚障害のある親の子どもを意味する英語を元につくられた言葉だ。

 勉強会を提案した村下初海さん(37)は、聴覚障害のある父をもつ。仕事や育児に必死だった父、そして母も、結婚や出産に反対した周囲を見返そうとしていたのかもしれないと、いま思う。両親が聴覚障害者の安東明珠花さん(27)は、自分が頑張ってきた理由は『不良』といわれないためだった、とわかった気がした。2年前に結婚する際、相手家族が親の障害について何も言わなかったことをありがたいと思ったが、最近そう思うこと自体がおかしいと気付いた。

 コーダは日常生活で、親を助ける役目を当然のように期待されがちだ。障害のある親への社会的な視線を敏感に感じ取り、親を守ろうとする傾向もある。幼いときから親の通訳を担うコーダは多く、負担となる例もある。両親が聴覚障害者の馬場美和子さん(45)はは、小学生の頃から先生と親との面談で通訳をしていた。自分の成績や評価を自分が通訳するのは奇妙だが、他の人に通訳を頼めることも知らなかった。「子どもが通訳をしなくてもいいんだと、教えてほしかった」と話す。

 成蹊大の渋谷智子准教授(社会学)は、コーダは悩みを一人で抱え込みがちで、「当事者同士が共感し合える場が必要」と指摘する。東大バリアフリー支援室特任助教の中津真美さんは、コーダや親の声、コーダの集まる会などを紹介する「コーダのページ」(http://marblemammy.wixsite.com/coda-and-parent)を運営、「コーダが苦しむ背景には障害者が子をもつのはイレギュラーという空気がある。それをなくし、家族全体を支援する社会にしていきたい」と語る。

 勉強会では10~50代の約20人が語り合った。村下さんは「次の世代には同じ思いをさせたくない」と話す。