吃音「沈黙の共謀」を超えて

2019/03/09

朝日新聞GLOBE 2019年3月3日

 吃音は約100人に1人といわれる。隠したり、話すのを避けたりする場合があるため、周りが気付かず誤解が生じるときもある。気にしてきた記者が世界を回り考えたレポート。

 吃音の著名人は数多く、日本では元首相・田中角栄もその一人。また、映画にもなった英国王・ジョージ6世もいる。エリザベス王女の父だ。かれらのエピソードが紹介されている。その他の吃音がある著名人も紹介されている。

 吃音の多くは発達性で、原因ははっきりしないが、徐々にわかってきたこともある。九州大学病院の「吃音ドクター」菊池良和は2010年の論文を紹介してくれた。米国立保健研究所(NIH)の研究者らが、発症に関係ありそうな突然変異した遺伝子を突き止めたという。記者が会った研究者は、特定の遺伝子をマウスに移したところ、鳴き声に正常なマウスにはない「間」があったという。菊池医師はDNAがすべてではないという。吃音の原因が完全に解明されたわけではないが、迷信はもちろん、家庭でのしつけなども吃音に関係ないことはわかっている。

 学校や職場で悩む吃音者は少なくないが、英国にある吃音の従業員を積極的に支援する企業が紹介されている。この会社内のグループ「EY吃音ネットワーク」を統括するイアン・ウィルキーは吃音者の就労支援組織「雇用者吃音ネットワーク」を運営する。なぜ「雇用者」なのか。吃音は100人に1人、残りの99人の意識が変わらないと問題は解決しないからだ。ウィルキーは「吃音を隠さないでほしい」という。吃音があると、本人はつい黙ってしまう。周りも、あえて話しかけようとはしない。「私たちは『沈黙の共謀』と呼んでいます。吃音者も、そうでない人も、吃音について話をしない。話さなければ変わらない」

 2月16日、和歌山市で吃音者団体「和歌山言友会」の設立式があった。言友会は吃音者の互助組織で、和歌山は全国で38カ所目になる。全国言友会連絡協議会の理事長・斉藤圭祐は、社会の認識を変える「ちょっと極端な方法」として、「いろいろな公共の場でどもること」を挙げる。注文でどもると、店員は「?」という反応をしたが、次第に自然な対応をしてくれるようになったという。「他の障害の歴史もそうだったと思う。自分たちが発信していくことで、身近な社会から変わっていく」

 取材であった吃音者はみなからかわれたり、いじめられたりした経験があったが、「話すことが大切」と一様に語っていた。「沈黙の共謀」を超えていこう。