人間のすべて 障害者介助に 「こんな夜更けにバナナかよ」原作・渡辺一史さんに聞く

2019/01/27

朝日新聞 1月27日

 筋ジストロフィーの重度身体障害者とボランティアの奮闘を描いた標記のノンフィクションが刊行から15年、ロングセラーを続けている。公開中の映画も反響を呼んでいる。著者が新刊『なぜ人と人は支え合うのか』を出したのを機に話を聞いた。

 故・鹿野靖明さんは、わがままで気まぐれ、強気と弱気が同居する。とにかく強烈な、素っ裸で生きている人だった。ボランティアはのべ500人超。振り回されつつ、閉口しつつ、鹿野さんを支えることで彼らもまた支えられている現場は、深い森に分け入ったようだった。介護の取材は初めてで、性や排泄を含め人間のすべてが露わになって凝縮された、巨大な混沌だと感じた。全体像を描ききりたくて自らも介助に加わり、取材に明け暮れた。愛や涙で語られがちな福祉の定型を覆す作品に結実しえたのは、人と人との生々しいせめぎ合いが「劇薬」と呼ぶほかなかったから。

 今回の映画化は、原作のトーンをくむものになっている。鹿野さん役を演じた俳優・大泉洋さんの発言もうれしかった。「自分の子どもには、人に迷惑をかけないようにと教えてきたが、改めたい。できないことは頼りなさい。頼られたときは応えられるような人になりなさい、と伝えます」。障害のある人たちの訴えを見事に言い当てたことばだと思った。同時に、自己責任という価値観を誰もが内面化させられた、時代の風潮を表してもいる。

 中高生向けに書いた新刊では、序章で「なぜ障害者と会うと緊張するの?」と挑発する。差別はいけないといった、きれい事抜きで話そう。生身のつきあいを通じ、人が支え合うことの不思議さ、豊かさを考えていこう、と説く。