障害者への「合理的配慮」を考える(上) 進まぬ入試のIT活用

2018/11/19

朝日新聞 2018年11月6日

 障害者差別解消法が施行されて2年半。学校の授業ではITを使った「合理的配慮」が徐々に進んでいる一方、入試やテストではIT活用が浸透しない。9月末に開かれた「入試のIT配慮シンポジウム」で、どうすればよいか3人の専門家が意見を交わした。

 中野泰志・慶応大教授(知覚心理学)は大学を目指す視覚障害者への配慮を研究し、パソコンで司法試験を受験した学生の支援もしてきた。今年初めて、大学入試センター試験の「配慮案内」に「パソコンの利用」に関する相談が明記された点に触れ、「すごい変更です」と語った。現在の「配慮事項」には、拡大文字問題冊子、時間延長、別室受験、介助者などがあるが、十分とは言えない。視覚障害の学校では、1980年代からIT機器を使っており、来春の学校教育法改正でデジタル教科書も使える。中野教授は「入試でもパソコンなどを使い、閲覧アプリや音声読み上げを導入してほしい」と求めた。

 20年度から始まる大学入学共通テストでは、思考力・判断力・表現力の評価が求められ、記述式や複数の資料を比較する出題もある。視覚障害者の南谷和範・大学入試センター准教授(教育工学)は、私見とした上で「点字使用者や弱視者、読み障害の受験生には、非常に取り組みづらい試験になる」、「地図やグラフは健常者が効率的に判断するためのもの」で、それらを使いこなす技術だけを問うことは、健常者のみを想定した試験になりかねないと言う。「IT機器で負担を改善すると同時に、多様な障害に適した思考力・判断力の発揮手段の開発、測定方法の実用も重要」と話した。

 入試での配慮申請の支援をしてきた、近藤武夫・東大准教授(支援工学)は、早くから受験生本人が、どんな配慮なら実力が発揮できるのかを具体的に説明できるようになることの重要性を強調。高校入試では、中学校長から高校校長への相談となることが多く、本人が直接配慮の意思を伝える機会さえないことが多いが、「大学では、入試も入学後も自ら配慮を求めていかなければならない」と話した。