ニュースアップ 障害者 高校入試で定員内不合格 「学びたい」に応える環境を

2018/10/07

毎日新聞 2018年9月23日

 今春、重度脳性まひの生徒が、夜間定時制の高校を受験、受験者が募集人員を下回る定員割れだったのに不合格となった。障害者の定員内不合格は全国の高校で相次ぐ。共に学ぶとは何かを考える。

 兵庫県淡路市の権田祐也さん(16)は、神戸市の市立楠高校(夜間定時制)を受験、県内の公立高校入試でただひとりの「定員内不合格」だった。卒業後の行き場を失った。家に閉じこもりがちでストレスをためる祐也さんを知った、増住恵さん(65)が誘った識字教室に5月から週2日通う。増住さんは、同校の元教師で、識字教室のボランティア講師だ。祐也さんは話すことはできないが、「はい」「いいえ」の意思表示はできる。増住さんは選択肢問題ばかりのプリントをつくり一対一で教える。「教える側に彼とつながろうという意識さえあれば、通じ合える」と手応えを感じている。

 祐也さんは障害のない子と一緒に地域の学校に通った。級友たちは、祐也さんのよだれをいやな顔ひとつせず、拭いてくれた。幼い頃から地域で共に成長してきたからだ。祐也さんも友だちから刺激を受けて伸びてきた。友達と同じように高校へ行きたい、という気持ちが芽生えた。代読・代筆者を付ける受験に備え、「はい」なら声を出し大きくうなずく、「いいえ」なら黙って首を振る練習を重ねた。祐也さんは医療的ケアを必要としているため淡路市は、保育所、小中学校に看護師を配置した。一方、神戸市は市立高校に看護師を配置した例がない。祐也さんを支援する障害者当事者団体「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」(障問連)の要請に対して市教委は「受験者が合格した段階で、看護師配置を検討する」と約束していた。ところが、祐也さんは定員内不合格に。試験結果を開示請求すると、全教科で得点しており、また再募集の試験ではそれを上回る得点の教科もあった。合否は、校内の判定委員会で決める。定員内不合格を出す場合、神戸市では校長から市教委に報告、判定が妥当か協議する。毎日新聞の取材に、市教委は「判定は妥当だった」としており、障問連などは「障害を理由にして入学拒否した差別だ」と抗議した。

 13年成立の障害者差別解消法は、障害を理由にした差別を禁じている。文部科学省は同年、学校教育法施行令を改正、子供の就学先について、障害の種類で振り分ける「分離別学」を改め「本人・保護者の意見を最大限尊重する」と通知した。だが、義務教育ではない高校進学を望む障害当事者の権利は保障されているとは言いがたい。文科相の17年度「公立高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査」によると、①「定員内でも不合格にする可能性がある」32道府県②「定員内であれば原則不合格は出さないことにしている」15都府県。兵庫県は②と回答していた。

 障害者の高校入学運動を進める「どの子も地域の公立高校へ・埼玉連絡会」は、連携する地域から寄せられた情報だけでも今春、6県で6人が定員内不合格だったという。香川県の、言語と知的に障害がある石川桃子さん(28)は、県立の定時制高校を14年連続で受験しているが、今春も定員内不合格とされた。千葉県の、医療的ケアが必要な渡邊純さん(20)は6年間23回受験、すべて落とされている。同じ千葉県では、1年浪人した知的障害のある石崎智大さん(17)が今春合格した。発表の日、校長は「つらい1年間にしてしまい、申し訳なかった」と謝罪した。同会事務局の竹迫和子さん(66)は「教委が定員内不合格を出さないよう指導すると共に、介助など現場の応援態勢を整えていかなければ、障害者が排除される状況は変わらない」と指摘する。

 障害者の多くは、定時制に行き場を求めている。定員割れの学校を狙うという事情もあるが、「教育の安全網」として多様な生徒を支えてきた学校の特色にも期待する。楠高校も30年前から、障害者や高齢者に門戸を開き、寄り添ってきた。今年度は、障害者手帳所持者が4学年で206人中62人在籍している。祐也さんのような医療的ケアが必要な重度障害者も、県境整備した上で受け入れたい。教育が行き場を閉ざしてはならない。