やまゆり園事件2年 遺族の男性

2018/08/01

朝日新聞 2018年7月26日

 事件から26日で2年。被害者の遺族の男性(59)が、植松被告(28)と再び向き合った。

 今月4日、立川拘置所の面会室で、植松被告は「遠いところ、ありがとうございます」と頭を下げた。昨年6月初めて面会した頃は「死刑にしてほしい」と思っていた。だが、3度目の今回は、かつてのような憎しみは湧いてこなかった。

 男性は、事件の報道に接するたび、「遺族が被害者の実名を明かさないから、被害者は命を奪われただけでなく、この世に存在した事実さえ消し去られている」と言われている気がして、葛藤を覚えるようになった。当初は匿名を選択していたが、殺害された姉は単なる「入所者の女性」ではなく、個性ある一人の人間だ。実名を出すことは、生きた証しを残すことにもなる―。家族の了承を得られた名だけを明かすことにした。宏美さん。脳性まひで会話は難しかったが、表情を見れば感情は伝わってきた。

 最初の面会時、「姉が憎かったの?」「いえ。憎くありません」被告はうめくばかりだった。怒りを通り越し、むなしさが募った。「彼に何か伝えたい」とも感じた。

 今年6月、2回目の面会時、不思議と憎いとは思えなかった。憎むことに疲れたのだと思う。「一度きりの人生、更正してやり直そう」と語りかけていた。伝えたい「何か」の答えが見つかったような気もした。

 そして今月4日。再び襲った理由を問うてみた。「障害者は社会に必要ないと感じた」「絶対正しいと思った」とはっきり述べ、後悔はしていないと言い切った。「事件前に戻れたら同じことをするか」と尋ねると押し黙り、「やらないかもしれない」と絞り出すように言った。「今の状況が楽しくないから」と続けた。将来のことを聞くと、「外に出るイメージ、自分が生き残っているイメージが湧かない」。

 男性は、「彼はやっぱり普通じゃない。何を考えているかわからない」、一方で「私も彼も、変わってきたのかもしれない」と言う。これからも面会を続けるつもりだ。「会う義務があるし、この先も自分の気持ちが変わらないか確かめたい」