〈新型出生前診断〉 「命の選別」 定着懸念 無認可検査を警戒

2018/02/02

毎日新聞 2018年1月28日

 新型出生前診断(NIPT)について、日本産科婦人科学会(日産婦)が方針転換する背景には、高齢妊娠の増加に伴うニーズの高まりと、それを狙った無認可ビジネス拡大への危機感がある。NIPT自体に「命の選別」との批判も強い。「産む前の選別が当たり前の社会になる」と危ぶむ声も上がる。

 手軽で精度も高いNIPTは欧米の一部で広がり、米国企業が日本に導入しようとしたが、批判が高まった。そこで、日産婦が指針を定め、日本医学会が認定する施設で臨床研究として実施するとの条件で5年前に始まった。専門家が検査内容や遺伝性の病気について夫婦に説明するカウンセリングを義務づけ、批判に応えた。

 共同研究組織「NIPTコンソーシアム」によると、晩婚化もあり検査希望者は年々増加していたが、昨年から傾向が一変、検査数が減り始めた。要因とみられるのが医学会の認定を無視する施設の存在だ。NIPTは産科医でなくても、採血できればデータ解析企業と組んで提供できる。指針違反だが違法ではない。このため、安価で年齢制限もなく、指針が認める3疾患以外の検査や性別判定ができることを売りに、利用者を増やしている実態がある。日産婦や医学会は、適切なカウンセリングが行われていないため中止を求めてきたが、無認可施設側は「患者の希望に応えることが医師のつとめ」と反発、指針を守ってNIPTを控えている側からは不満が高まっていた。昨年12月の日本産科婦人科遺伝診療学会では、コンソーシアムの研究者らが臨床研究の終了を主張。指針作成の際に倫理面から協力した5学会のうち日本人類遺伝学会の松原洋一理事長も「新しい技術を押しとどめることはできない。幸福に使える体制整備に力を入れるべきだ」と容認の姿勢を見せた。日産婦も指針見直しに舵を切り、関連学会との調整に入る。

 だが、臨床研究の検証が不十分で方針転換は拙速だと疑問視する声もある。日産婦の吉村泰典・元理事長は「遺伝カウンセリングは重要だが、それにより夫婦の意思決定にどのような変化があったのか、細やかな検証なく臨床研究を終えるのは疑問だ」と話す。

◇「女性、障害者に負担加速」

 「出生前診断の広がりは健康な子を産まないといけないという女性の心身の負担と、障害者の生きづらさを加速させる」。先天性難病の患者団体「神経筋疾患ネットワーク」は昨秋開いたシンポジウムでこう訴えた。着目するのは中絶率の高さだ。NIPTで陽性と判定され羊水検査などで染色体異常が確定したケースの9割以上が中絶を選んだ。母性保護法は胎児の異常を理由にした中絶を認めていない。国内の中絶件数は16万件を超えるが、同ネットの見形信子代表は「胎児が染色体異常だからと中絶するのは命の選別だ。女性が選ぶ権利は大切だが、産む前に選別することが当たり前になっていくのは怖い」と話す。

 一方、臨床研究に取り組む関沢明彦・昭和大教授は「NIPTで、流産の危険がある羊水検査を避けられる」と妊婦にとっての利点を挙げ、「若い妊婦がリスクを伴う検査や精度が劣る検査を選ばざるを得ないのはおかしい」と訴える。関沢教授らは2015年にも、妊婦の負担軽減を理由に対象疾患を広げるよう日産婦に要望した。

 生殖技術に詳しい柘植あづみ・明治学院大教授(医療人類学)は「NIPTはニンフの不安をあおるメンがある。日産婦が拡大を決めれば、誰もが受けるのが当然との空気になるのを危惧する。従来なら自然に流産した妊婦も早期の検査で異常を指摘され、決断を迫られる。その責任が女性に負わされることも考えるべきだ」と指摘する。