けいざい+ ろう者の祈り(上・中・下)

2018/01/07

朝日新聞 2017年12月20・21・22日

 2016年3月に「ろう者の祈り」第1シリーズが連載された。それから2年間、多くのろう者に会ったが、聴者の世界で働く苦しさを目にする。

 (上)では、職場でのコミュニケーションを筆談でしてきた1人のろう者を紹介。新しい上司の、「これからは聞こえる人も聞こえない人も関係ない。自分のことは自分でするように」との一声で筆談をお願いする雰囲気がなくなり、仕事がうまく進まなくなった。後輩に、「僕の仕事量は10,あなたは2だ」と言われた。何とかしようと焦るが空回りし、仕事が手につかなくなった。医者に「適応障害」と診断され休職。

 2016年に障害者差別解消法がスタートした。聞こえないことに気を配るのは当然、合理的配慮である。しかし、内閣府が2017年9月に発表した世論調査では、約8割が法律を知らなかった。全日本ろうあ連盟が6月に発行した「差別事例分析結果報告書」によると、差別経験のある聴覚障がい者は約9割。差別が最もあるのは仕事の場面だった。

 (中)では、希望のある事例を紹介。東京海上グループの「イーデザイン損保」の斉藤知見(31)は、職場の理解がないのがつらくて会社を変わってきた。「イーデザイン」はろう者雇用の実績があるので大丈夫かなと思ったが、「ここも同じ」と思い始めていた。2016年夏、社長の稲寺司(54)らにつらさを告白、稲寺は気がつかなかった自分を恥じた、そして会社が変わった。朝礼では、音声を文字にするソフトを手配、筆談、メールなどによる情報保障にも気を配っている。いちばん変わったのは社員たちだ。斉藤を講師にして手話を学ぶ社員が70人を超えた。「手話を少しでもしてくれると、すごくうれしい、みんなと一緒に笑えるなと思える」と斉藤は言う。稲寺は、「誰もが働きたいと思える会社にしたい。会社というより人間が試されている」と話す。

 もう一つの事例、「佐賀県聴覚障害者サポートセンター」がはじめた、県内企業の情報交換会。ろう者が仕事で何を悩んでいるのか、必要な配慮は何なのか、などを相談し合っている。職員の香田佳子(53)は、「ろう者は野心があるのにチャンスさえもらえない。理解を広げて、ろう者の希望をかなえたい」という。ろう者が思いを文章にして会社に出せば、と思うが「日本語の文章が苦手なのでガマンする道を選んでしまう」と職員の清田大輔(36)も話す。「日本語の壁」である。

 下では、ろう者がぶつかる「日本語の壁」について、悩んでいる事例と、手話で文法を説明しながら日本語を教えている鈴木隆子(54)が紹介されている。鈴木は、助詞の使い方だけでも子どものうちにマスターすれば、日本語習得の道が開け、就職のチャンスが広がるという。