くらしナビ ライフスタイル 障害者向けツール次々開発

2017/09/28

毎日新聞 2017年8月11日

 NPO法人「ことばの道案内」(通称ことナビ)は、2004年設立以来、駅から公共機関や主要施設へのルートを言葉で説明するサイト(http://kotonavi.jp)を運営している。公開ルートは首都圏を中心に2400以上。駅構内の情報も約120件掲載。アンドロイド版に続いて今年はiOS版も加える予定だ。ことナビの佐藤誠二事務局長(70)は「観光地には点字ブロックが設置されていない所が多い。外出をためらっていた人も、同行者と一緒に出かけるきっかけになれば」と願っている。

 脳卒中や頭のけがによって言語機能に障害がある失語症の人は、全国に30万人以上いるとされる。考える能力はあっても言葉が出てこない、思ったことと違う言葉を発してしまう、といった症状があり、周囲とコミュニケーションがとれず社会生活に困難が生じる。広告企画会社「アドバンプレス」は昨年12月から、患者向けのタブレット用アプリ「喚語屋言兵衛(かんごやごんべえ)」を販売している。3400語以上が絵と文字で登録されており、指さして伝える仕組み。明欣彦(あきらよしひこ)社長が失語症の友人家族から相談されたのがきっかけで開発した。利用者の1人、25歳の時バイク事故で大けがをし、失語症が残った男性(47)の母親(75)は「見た目ではわかりませんが、言葉が通じないから働けない。親子でもコミュニケーションが難しいので、このようなツールは便利」と話す。NPO法人「日本失語症協議会」が失語症患者と家族を対象にした調査では、20~50代の働き盛りで発症したケースが6割以上を占めた。園田尚美事務局長は「高齢者がなるものという先入観を持たれがちだが若年者も少なくない。タブレットは抵抗なく使えるのでは」と評価する。

 富士通は、耳が聞こえない人に振動と光で音を伝えるヘアピン型の端末(オンテナ)を開発中。発案者でデザイナーの本多達也さん(26)は、大学時代に耳の聞こえない人と親しくなり、光の強弱で音を表現する機器を製作。しかし当事者は「日常生活で視覚を酷使している者にとって、目で見る情報が増えると疲れる」。触角を利用することを考え、ヘアピン型に行きついた。富士通に入社し、プロジェクトチームを組んで、数百人の当事者から意見を聞いて改良を重ねた。振動の強弱で距離がつかめたり、左右に付けると音の方向がわかったりする。「電話とメールの音の違いや車が近づく音がわかった」などの感想が寄せられた。本多さんは「テクノロジーやデザインを活用して、今までにない感覚を作りたい。2020年までにすべてのろう者に普及させるのが目標」と開発を進めている。