記者の目 〔バニラ・エア問題を考える〕 「バリアフリー」の道険し

2017/09/28

毎日新聞 2017年7月26日

 デジタルメディア部  岩下恭士

 先ごろ、全盲の私が4人乗りの単発プロペラ軽飛行機の操縦かんを握ってハワイ上空を飛ぶという夢のような体験をした。観光客ら向けの遊覧飛行とパイロット養成校を営むホノルルの旅行会社が実施している操縦体験コースだ。航空法の厳しい日本では考えられないことだが、アメリカでは操縦免許を持つ教官が同乗していれば、誰でも機長席で操縦かんを握れる。

 上空からのハワイの絶景が売りの体験ツアー、全盲者には無意味と思われるかもしれない。だが、違う。機体の動きを自分の手でコントロールして体感でき、リアルタイムの音声ガイドで、頭の中にオアフ島の輪郭を生き生きと浮かべることができる。むしろ、見える人よりも大きな感動を味わえると感じた。

 地上での暮らしを思う。白杖で探りながら歩けば電柱や自転車、時にはスマホに夢中の若者などバリアだらけだ。この大空のような解放感を、障害者が等しく味わえるのはいつのことなのか、と。

 障害の有無や年齢にかかわらず誰もが旅を楽しめるユニバーサルツーリズムが注目されている。ある会社の視覚障碍者自動車運転体験ツアーは毎回完売のヒット商品だ。景色が見えなくてもそこでしか味わえない旅の楽しさを享受できるからだろう

 奄美空港で格安航空会社(LCC)バニラ・エアが車いすで搭乗しようとした木島英登さん(44)に適切な配慮をしなかった問題が波紋を広げた。バニラ・エアへの批判の一方で、木島さんに「LCCを訴えるのは筋違い」「設備がないのを知った上での確信犯的行為」などと中傷の声がネットにあふれる。正直、私なら関空発の同便の代わりに、約4万円余計にかかっても伊丹空港発の日本航空を選ぶ。せいぜい年1回の旅行、疲れることはしたくないからだ。だが、木島さんが声を上げたことで、「バリアフリー社会」の程度、実態が公知されたとも言えよう。

 昨年4月に施行された障害者差別解消法では、民間企業に対して合理的配慮を努力義務として求めている。車いすユーザーへの搭乗時のサポートは基本的な配慮だ。バニラ・エアは過失を認めた上で、事後に奄美空港に階段昇降機を設置している。受け入れる人、社会の問題なのだろう。

 木島さんは、ラグビーの練習中の事故で車いす生活になった。取材に「歩けなくなったことよりも周囲の人の態度が一変したことの方がショックだった」と答えたことがある。旅慣れた木島さんは「日本のようにスロープや点字ブロックがなくても誰もが気軽に手を貸してくれるアメリカが暮らしやすい」とも話した。私も何度か海外に出かけ、障害者に配慮したインフラは日本が優れていると感じるが、暮らしやすさという話になれば木島さんに同感だ。木島さんは「社会が変われば、障害が障害でなくなります」と言った。

 さあ、五輪・パラリンピックを迎える2020年、日本はどこまで変われるだろうか。