
「共に生きる」意味 今こそ問う
毎日新聞 6月23日
大阪阿倍野で優れたドキュメンタリー映画を紹介してきた「ヒューマン ドキュメンタリー映画祭」が15回目になる今年で終了する。最後の映画祭では、総合プロデューサー・伊勢真一監督(68)の新作「やさしく なあに~奈緒ちゃんと家族の35年」が上映される。知的障害のある姪・奈緒ちゃんと家族を追ったシリーズの4作目で、制作の大きな動機となったのが相模原障害者殺傷事件だ。
映画祭は2003年に始まった。きっかけの一つは、前年大阪市内であった伊勢監督作品、脳性まひで寝たきりの遠藤滋さんと介護者の日々を記録したドキュメンタリー映画「えんとこ」(1999年)上映会での出来事だった。上映後のトークコーナーで、40代くらいの男性観客が「主人公のような障害者は世の中にいない方がいい…」と発言した。すぐに別の女性が「そんなことはない」と言い返したが、伊勢監督は「さまざまな映画を見ることで『共に生きる』ことの意味を問おう」と、仲間と映画祭を始めたという。
当初は阿倍野区のサポートがあったが08年第6回から市民有志の手作りとなった。スタッフの高齢化などで今年で区切りとするが、伊勢監督の映画への思いは熱い。新作の編集作業を続けていた昨夏、奈緒ちゃんが暮らす神奈川県内で事件は起きた。伊勢監督は被告男性の言葉が、15年前の上映会での男性の発言と同じだと思い起こし、今こそ新作を仕上げようと強く思ったと言う。たくさんの「奈緒ちゃん」が社会には生きていて、障害があっても決して生きる意味のない存在ではないとの思いを込めた。「映画で社会が変わるわけではないが、弱肉強食の流れを押し戻す力になれば」と語る。





