
教育の窓 障害あっても同じ環境で
毎日新聞 2017年5月22日
相模原市の障害者施設で昨年7月に起きた殺傷事件で起訴された元職員の男は、障害者を差別し、殺人を正当化する供述をしたとされる。事件後、教育現場では、障害のある子もない子も学校の通常学級で学ぶ「インクルーシブ(包み込み)教育」が改めて注目された。事件が起きた神奈川県で、一緒に過ごすことで偏見をなくそうという取り組みが行われている。
相模原市に隣接する厚木市の市立毛利台小学校は、昨年4月県が指定する小学校で初めてのモデル校としてインクルーシブ教育を始めた。前年度まで特別支援学級に在籍した17人が通常学級に移り、すべての日課、行事に一緒に参加している。他校にないトラブルもある。障害のない児童が障害のある子にちょっかいを出すことはよくある。しかし、注意してトラブルを解決する児童がおり、拡大はしない。インクルーシブ教育導入に合わせ、担任に加えて支援教員も教室に置いた。「子どもは健常者、障害者を分けることなく、嫌がらせはだめということを体験的に学習する」と山田淳司校長は語る。
同校の卒業生が通う市立玉川中学校も県のモデル校だ。昨年4月から、休み時間や放課後に障害のある生徒をサポートするボランティアの支援員を配置、全員が同じ授業や行事に参加できるようになった。障害を持つ生徒にとって、学習だけでなく「生活の力」を身につける場となっているという。
インクルーシブ教育は、1994年にユネスコ(国際教育科学文化機関)の「サラマンカ宣言」で提唱され、海外ではすでに一般的な考え方になっている。
国内の学校では長年、障害のある児童・生徒を障害のない子どもたちと「分ける教育」を行ってきたが、見直す動きが出始めた。自治体ごとに取り組みには差がある。
神奈川県では2015年にインクルーシブ教育推進課を新設、中学のモデル校1校で始めた。今年4月には新たに三つの高校を推進校に指定した。ただし、志願できるのは知的障害者が持つ療育手帳の区分で最軽度(B2)の生徒だけ。「障害の程度で区別することが差別の助長につながる」と批判の声が上がる。県は将来、障害の有無、区分だけでなく、外国籍の子どもも含めたインクルーシブ教育を目指す方針だが、初期の目標は、B2の生徒を受け入れる高校を増やすことに置いている。
障害児教育に詳しい田園調布学園大学人間福祉学部・鈴木文治教授は、インクルーシブ教育には相模原のような事件を防ぐ効果があると指摘する。「学習の効率を重視して、分ける教育方法を支持する保護者や教員も少なくない。しかし学校は『理解の場』にすべきだ」と強調する。教員自身が障害者に関わったことがなければ、子どもに伝えるべきこともわからない。「推進するには、教員の育成に力を入れる必要がある」と語った。
障害を持つ子どもが通常学級で学ぶことができる環境は徐々に整いつつある。障害者差別解消法で公立学校での配慮が義務化されたことも大きい。また情報通信技術の発達も追い風となっている。東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授(人間支援工学)は「障害や難病があっても能力や専門性を高められる社会が少しずつ実現しつつある」と期待する。





