(続・みんなちがっていい:上)学習障害、手探りの配慮受験 障害者差別解消法施行から1年

2017/07/18

朝日新聞 2017年4月23日

 奈良市の松谷知直さん(15)は広汎性発達障害と注意欠陥・多動性障害、学習障害がある。小1の読み書きでつまづき、自信を無くした。小5の時にiPadの文字拡大や音声読み上げを知り、「世界が変わった」。「頭が悪いんじゃない、読み書きの部分がクリアできれば勉強はできるんだ」とわかった。
 中学で特別支援学級に進んでからは「少年の主張」や「TED×Kids」で「見えない障害」への理解を訴えてきた。中2からは高校の説明会や体験授業を回り、受けられる配慮について相談、昨秋には入試での配慮の要望を中学に伝えた。
 ところが、入試の10日ほど前に中学から打診された、奈良県教育委員会の回答案では、「パソコン利用」は通ったが、「問題文の字体とレイアウトの変更」は認められていなかった。松谷さんにとって、白地に黒の印刷は濃淡が強すぎてうまく読めないのだ。県教委は「入試は公平公正が大事。前例もなく、配慮が過剰にならないよう、慎重にした」と話す。だが、大学入試センター研究開発部の南谷和範准教授は「形式的な公平性より、事前に受験生とよく話し、負担解消となる対応が重要だ」と話す。松谷さんの両親は、障害者差別解消法にも触れ、やりとりを重ねた。入試の4日前、求めた配慮の大部分が県教委に認められ、無事合格。
 松谷さんは「すべて手探りだった。後に続く人には、直前にこんな苦労をしてほしくない」と言う。
 大学入試センターによると、今年のセンター試験では2594人の受験生に「配慮」が認められた。発達障害の人数が増え249人、聴覚障害417人、肢体不自由285人、視覚障害101人など。文部科学省によると、昨年度は全国の公立高校入試でも約2950校が配慮をしたが、発達障害や学習障害は約6%にとどまった。自治体による温度差もある。
 障害者の進学を支援する全国高等教育障害学生支援協議会の近藤武夫・業務執行理事は、障害者差別解消法の効果について「どんな障害でも、個々に合った合理的配慮を求めることができるようになった。一般の高校・大学へ進学する障害者は今後増えるだろう」と語る。
 奈良県教委は今年度の入試で約20人の受験生の「配慮受験」を検討したが、「少ない人数で一つ一つ精査しており、時間もかかる」と話す。教育委員会に知識のある担当者が必要だ。