障害者の出産 なお偏見

2017/03/05

朝日新聞 2017年3月1日

 「不良な子孫の出生を防止する」ため、病気や障害を理由とする不妊手術や中絶を進めた旧優生保護法について、日本弁護士連合会は22日、国に被害者への補償を求める意見書を提出した。法律は変わったが、障害者らの出産や子育てへの偏見は残り、今なお苦しむ人たちがいる。

 市民団体「優生手術に対する謝罪を求める会」は、「相模原市で起こった障害者殺傷事件は、私たちの社会に優生思想と障害者への差別・偏見が根強く存在することを痛感させました」と声明で指摘。

 神戸市の藤原久美子さんは、糖尿病の合併症で失明。40歳で妊娠した際、医師や母に中絶を勧められた。障害者は生まれてこない方がいいのか、障害のある自分も世の中にいてはいけないのか。自分と我が子のどちらも否定されたと思った。生まれた娘の手足は羽二重餅のようにやわらかく、いとおしかった。夫と、親や介助者の力も借りて育てた。藤原さんは「障害それ自体が不幸ではない。子育てできないなどと決めつけ、奪うことが障害者を不幸にしている」という。

 安積宇宙(うみ)さんは、母と同じ障害を持って生まれた。骨が折れやすい骨形成不全症で。車椅子を使う。中学生のころ、友人が「友達になると私まで差別される」と言ったのを知った。母もたくさんの差別をくぐり抜けて生きてきたのを知っていたから、前を向けた。宇宙さんが「最高の同志」と言う母は、優生保護法の廃止を社会に訴え続けた安積遊歩さんだ。妊娠5カ月で胎児の骨が曲がっているとわかったが、産むに決まってると思った。毎朝抱きしめる宇宙さんの目は輝いていた。命は喜びだと気づかされた。宇宙さんはいま、ニュージーランドの大学に通う。「歩ければ便利なのに、と思うことはある。でも人は人と人との間で生きる。それをわかりやすく体験できる私の体の特徴はラッキーでもある」。自分には心から安心できる大人が何人もいた。自分もそんな大人になりたい。