くらしナビ ライフスタイル 座談会/上 インクルーシブ教育15年の評価

2017/02/12

毎日新聞 2017年1月23日

 障害のあるなしに関わらず、子どもたちが地域の学校の普通学級で学ぶインクルーシブ教育。毎日新聞社、豊中市教職員組合主催の「インクルーシブ教育を考えるシンポジウム」が15回目となる。15年の節目に、障害のある当事者や保護者、教員、学識者に教育の現状と共生社会の展望を論じてもらった。

 当事者の、姜博久(カンパック)さん:「三歩進んで二歩下がる」の状態だと思う。障害者権利条約に批准し、障害者差別解消法など関連法令が整う中で、障害児の就学についても「本人・保護者の意向を尊重する」ことになったのは前進。一方、保護者は以前と変わらず、地域の学校に通わせたいが受け入れてもらえるのか、特別支援教育で子どもが何かできることを増やした方が良いのか、という二つの間で思い悩んでいる。

 保護者の鈴木留美子さん:障害児と健常児の学ぶ場を分ける「分離・別学」を続けてきた文部科学省が「インクルーシブ教育の構築」を唱え、言葉としては広がってきた。しかし一緒に教育を受けているかというと、むしろ後退していると思う。2007年度からの特別支援教育によって、「共に学び育ちあう」姿勢ではなく、個別教室に取出ししてでもわが子に特別な何かをしてほしいと願う保護者が増えてきている。(司会者:世界標準のインクルーシブが日本版に変容しているのでは、という指摘ですね)

 教員の中山順次さん:「障害児は養護学校へ」とされてきた特殊教育の時代に比べれば前進してきた。しかし、地域によって「取り出し」が増え「普通学級にいる実態がないのでは」という議論がある。子どものころ、豊中で障害のある友達と育ってきた若い人が現場に入ってきている。彼らは、教室に障害児がいるのは当たり前と受け止めている。そうでない人も、豊中の共生教育に真摯に向き合っていて、困難を切り開いてくれるのでは、と若い教職員に期待している。

 大学教授 落合俊郎さん:全国では20年間で、特別支援教育制度への在籍者は3倍にも増えた。これをどう考えるか。14年に批准した権利条約は、24条で「障害者が障害に基づいて一般的な教育から排除されないこと」「合理的配慮が提供されること」を求めている。日本が条約を順守していると統計でどう証明するか難しいと思う。

 中山さん:特別支援教育は軽度発達障害のある子に光があたったが、障害に関わらず「共に育つ」という視点では「違う」と感じる。障害のある子が教室から取り出されて、個別に強化の課題に取り組むが、ひとつクリアしてもまた課題は出てくる。子どもを追い込んでいないだろうか。

 落合:7,8年前から、就学指導委員会で対象になる子の様相が変わってきた。以前は障害の重い子が支援学校を希望したが、軽い子が希望するようになった。従来の障害カテゴリーでない、社会・経済的な理由で課題を持つ子が特別支援教育へ流れてきている。さまざまな診断名が増え、「診断と特別教育のインフレ」になることを懸念する。本当に子どものためになっているのか考えないといけない。