災害時のろう者支援 課題も

2017/01/14

毎日新聞 2016年11月25日

 2014年3月に全国の町村で初めて手話条例を制定した「手話の町」、北海道新得町。台風10号による大雨に見舞われ、「ろう者」も一時避難を余儀なくされた。ろう者への理解がある地域ならではの行政の対応や住民の配慮が見られた反面、情報伝達では課題も浮かんだ。

 雨が強くなった8月30日、町が一部地域住民に避難勧告を出したが、地区に住むろう者8人には手話通訳専門員が訪問して情報を伝えた。保健福祉課の清野能伸係長は「他の要援護者には電話で連絡したが、ろう者に確実に伝えるには訪問しかなかった」と振り返る。31日未明には一般電話、携帯電話が不通になり、停電や断水も発生。安否確認や給水場所連絡などで、ろう者のいる世帯の戸別訪問を繰り返した。

 新得町には聴覚障害者に配慮した老人ホームが2施設、就労支援のワークセンターもある。人口約6200人で、ろう者は約200人。専門員の配置に加え、全戸に手話ポスターが配布され、コンビニの店員が簡単な手話を使える。清野係長が「ろう者の比率は他の自治体の数十倍。聞こえない人がいることに違和感のない風土がある」と説明。今回も身振り手振りで伝える住民の姿があった。町内に住む十勝聴力障害者協会の川口豊会長(69)は「ろう者だと近所の人が知っており、気にかけてもらえた」という。

 だが今回、避難所に身を寄せたろう者への対応で課題が残った。見た目ではわからないので、情報伝達から取り残され、給水所の移動もわからなかった。町は今回の教訓を踏まえ、災害時のろう者支援策を検討する。全日本ろうあ連盟は「避難所では目に見える形で情報提供することが重要」と訴えている。