余録(マツダスタジアム)

2017/01/14

毎日新聞 2016年11月4日

 広島市廿日市市に住む大元誠司さん(57)は車いすで生活している。広島カープのファンだが、3年ほど前から観客が増えて球場の席がとりにくくなった。もともとどの球場にも車いす席は少なく、旧広島市民球場には1塁側と2塁側に3席ずつしかなかった。7年前米国の球場を視察したうえで設計された新しいマツダスタジアムには142席ある。米国では26年前に障害者差別禁止法(ADA)が制定され、バリアーをなくす建物が普及していたのだ。マツダスタジアムの障害者へのサービスが新たなファンを掘り起こし、142席あっても需要が上回り、取りにくくなったというわけだ。

 日本でも昨年4月から差別解消法が施行された。マツダスタジアムには、同法が求める「合理的配慮」の好事例がたくさんある。オストメイト対応型のトイレ、毎試合ホスピタビリティースタッフが障害者の案内に努める、など。

 ファン層は多様化している。個々にきめ細かく対応できる優しさは、個々の選手の特性を生かせるチーム力にも通じる。大元さんは、カープの強さはそこにあると思っている。