天声人語(相模原事件から10日)

2016/08/23

朝日新聞 2016年8月5日

 容疑者の言葉のむごさに、私たちの社会が少しずつ傷つけられている気がする。事件から10日、話され、書かれたものから思いを拾った。

 「もし誰かが『障害者はいなくなればいい』なんて言っても、私たち家族は全力でみなさんのことを守ります」「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長のメッセージだ。

 事件で意志疎通の難しかった姉を失った男性、「正直、恥ずかしい、かわいそう、と思ったこともある。でも、彼女なりに一生懸命生きてきた。絶対に許せない」

 知的障害のある三宅浩子さん、「楽しみはコンサートに行くこと。殺された人たちにも、目標や楽しみがあったと思うんです」「障害者にも意志はあります」

 「相模原の仲間たちは、まぎれもなく、私なんだと感じている…不意に襲われないかと、信頼の底が抜ける」。脳性まひの小児科医、熊谷晋一郎さんだ。「今の願いは、もう一度、確かに私たちの受け継いできた『生きていてよい』という思想を仲間たちと確認し合いたいということに尽きる」