手話 大学などで進む研究強化

2016/08/23

毎日新聞 2016年7月12日

 手話を言語学などの観点から研究する部門が今年度、関西で新設された。設立に至った背景や目的を聞いた。

国立民族学博物館(以下民博、大阪府吹田市) 「言語」として比較研究  学術通訳者養成目指す

 民博に設けられたのは「日本財団助成手話言語学研究部門」。2011年に開かれた第20回国際歴史言語学学会のワークショップで手話を取り上げたことが契機になった。一般ろう者にも参加を募ったら1200人以上が参加、関心の高さとニーズがわかった。手話言語学の研究者は少なく、日本にも拠点が必要だという声も上がった。

 飯泉菜穂子・特任准教授は手話通訳養成校の学科長やNHK手話ニュースのキャスターなどを務めてきた。「手話を『聞こえないマイノリティーのためのお手伝い』という認識でとらえていてはは、真の平等は生まれない。言語学の人々は『手話は言語』という主張を軽々と乗り越えてくださる」と、転身決意の思いを語る。相良啓子・特任助教はろう者。他国・地域との手話を比較研究する。9月24~25日には民博で「手話言語と音声言語に関する民博フェス」を開催する予定。

関西学院大学(以下関学、兵庫県西宮市) 「ろう者の文化」に着目 実践教育とも連携して

 関学で始動したのは「手話言語研究センター」、教育現場と研究の連携・相乗効果が期待される。関学では、2008年から人間福祉学部の1,2回生が第2外国語の選択肢の一つとして日本手話(ろう者が用いる手話)を学べるようになった。日本の大学では初めての取り組みで、以後他大学にも少しずつ広がっている。

 先月開かれた、同センター開設記念シンポジウムでは、関学日本手話クラスの講師、前川和美さんらが登壇した。ろう者の前川さんは、「耳が聞こえない=障害者、ではなく、私たちは目で見て手話で話す、言語的少数者です」と強調。「センターの活動を通して日本手話が日本語とは異なる言語であることを証明してほしい」と期待を寄せた。

 山本雅代センター長は、手話言語研究の意義を「異文化・多様性の理解というと、海外に目を向けがち。でも、日本手話を通じたろう文化など、足元に視野を置くと新たな発見があるのでは」と語る。

 民博、関学の双方の開設・運営を助成するのが日本財団(本部・東京)。手話にかかる活動を統括する石井靖乃ソーシャルイノベーション本部上席チームリーダーは、学術研究の必要性から、手話研究の基礎があった民博・関学に設立を働きかけたという。同財団は全日本ろうあ連盟などと連携し、手話言語法の制定を求める活動をしている。「生まれた時から手話を第1言語として獲得し、手話を使用して豊かに暮らす社会を肯定しましょうという目的」。足りない部分(聴覚)を手話で補うという福祉的な視点とは根本的に異なる。「言語としての手話研究」は、他の領域、学問にも影響を及ぼしそうだ。