相模原殺傷事件、障害者や家族はー

2016/08/10

朝日新聞 2016年8月5日

 相模原市の施設で起きた事件で逮捕された男は「障害者は生きていても仕方がない」と話しているという。どう受け止めればいいのか、研究者や支援者に聞いた。

誰にも潜む差別心 背景に  東京大学教授(障害学)福島智さん(58)

 「障害者いらない(という)言葉、私心壊れます」。知的障害のある人から届いたメールの一節だ。なぜこうした事件が起きたのか、研究者として、一人の障害者として、思い悩み苦しんでいる。障害者らを虐殺したヒトラーの思想に心酔したからか、差別を理由とする「憎悪犯罪」、命に優劣をつける「優生思想」、さらに薬物の影響か―。

 事件がもたらす社会的影響と意味を熟考すべきだ。おぞましさと不可解さの元凶を見極めなければならない。一人による極めてまれな犯罪とみるだけでは、事件がはらむ「闇」の本質は探れない。ネット上では容疑者に共感するかのような書き込みが少なからず散見される。ある種の普遍性や社会の「病理」が背景にあると考えれば、誰の心にも潜む差別心と私たちは真剣に向き合わねばならない。

 労働能力という経済的価値で人が序列化される格差社会では、人は孤立と不安を他者への敵意にすり替えてしまう。互いの心を壊しあうような「負の罠」に、私たちは絡めとられていないだろうか。

 命を奪われた19人の魂に報いるためにも、社会の崩壊を防ぐためにも、私たちは互いの「壊れそうな心」を支え合わねばならない。

個性尊重 支え合う社会を  全国手をつなぐ育成会連合会会長 久保厚子さん(65)

 たった一人の凶行で共生への歩みに水を差された。会員からは「怖い」、「家から出たくない」と声が寄せられていたが、「障害者なんていなくなればいい」という発想を断ち切るには、プラス思考で呼びかけるしかない。「小さくなって生きる必要はない、今まで通りやっていこう」とメッセージを出した。

 反響には、障害者を否定する意見もあり、社会のひずみが現れていると感じた。障害者より、自分たちにお金を回してほしいと感じているのか。誰もがかけがえのない命、互いの人格と個性を尊重し、支え合う社会を目指すことが大切だ。

 長男には重度の知的障害があるが、感情があり懸命に生きている。彼らは周りに多くのことを気付かせてくれる存在であり、それが障害者福祉の礎になってきた。障害者が街に出て暮らす取り組みは進んできたが、今も施設を作る際に反対されることはある。それでも、交流を通して変わる面もある。

 障害がある人もみんなの中で暮らして当然だという理解を、教育などの場で深めていってほしい。