失語症を「会話」で助ける ゆっくり話してリハビリ効果

2016/07/18

日本経済新聞 2016年7月7日

 脳卒中などの後遺症で起きる失語症は、症状にもよるが、リハビリである程度回復が見込まれる。国立循環器研究センター(大阪府吹田市)の主任言語聴覚士、大畠明子さんは「症状が落ち着いたらできるだけ早く言語訓練を。発症後3カ月までは効果が上がりやすい」と話す。さらに「発症後2~3年は回復が見られる場合もある」と目白大学の立石雅子教授。

 ただ、医療機関でのリハビリは発症後180日が基本で「実際にはそれ以前の90日ほどで退院を迫られることが多い」とNPO法人日本失語症協議会(東京・杉並)事務局長の園田尚美さん。家に戻っても、思うように意思疎通できなければ引きこもりがちになる。園田さんは、失語症の夫を介護し始めた時の大変だった経験から2年前、日帰りの失語症専門リハビリ施設「言語生活サポートセンター」(東京・杉並)を開設。退院後の本人や家族の悩みにも応える。

 言語訓練は病院でしかできないと思っている人が多いが「日常生活での会話は効果的なリハビリになる」と大畠さん。専門家も普段のコミュニケーションの重要性を説く。ポイントは、ゆっくりと短い言葉で、ときには身ぶり手ぶりも交えて伝えること。相手が言おうとすることを焦らず待つ姿勢、記憶や思考能力は変わらないので幼児を諭すような言い方はしないこと、なども大事だ。

 最近は、リハビリや意思疎通の手助けになるITサービスが登場している。3年前に重い失語症となった東京都の大野京子さん(63)は、文字を読み上げてくれるアプリ「指伝話」を使う。「病院の外に初めて出た時は文字が読めず怖かったが、このアプリがあれば1人で出かけられる」。メールも音声で聞くとわかる。送信は、スマホの音声認識機能で話した言葉を文字変換、「絵文字入りのメールもできるようになり、友人に驚かれた」と楽しげだ。

 患者会「品川失語症友の会」は毎月の定例会でスピーチの時間を設けているが、タブレット端末iPadで指伝話を使って発表する人もある。

 指伝話を開発したオフィス結アジア(神奈川県藤沢市)は、読み上げソフトに続き、失語症の人の訓練用絵カードアプリ「指伝話メモリ」、服薬時間などを知らせてくれるアプリ「指伝話ぽっぽ」も開発している。

 アニモ(横浜市)やシマダ製作所(群馬県富岡市)は言語訓練ソフトを開発している。

 ソフト使用料は数千円程度から。中には公費補助対象のものもあり、障害者手帳で言語障害が認められていれば使える。自治体の福祉課などに問い合わせるとよい。