そこが聞きたい 障害者差別解消法施行

2016/06/28

毎日新聞 2016年6月9日

 障害者差別解消法が4月1日に施行された。障害のある人もない人も、お互いに人格と個性を尊重し合いながら、共に生きる社会の実現を目的としている。この法律をどう生かしていったらよいのか、法制定を求めてきた石川准・静岡県立大教授(59)に聞いた。

共生社会を目指し対話を

・解消法施行の意義……障害者に対する「不当な差別的取り扱いの禁止」と、「合理的配慮の提供」を行政機関や事業者に求めている。障害者が直面する問題を解決していく上で、合理的配慮の提供がきわめて重要だということを法律でしっかり規定した点だ。過重な負担をしなくても合理的配慮によって社会的障壁を取り除けるのに、それを提供しないのは「差別」であると位置づけた。日本は2007年に障害者権利条約に署名した後、条約批准に向けて多くの国内法の改正や、新法の制定をしたが、この解消法が最も重要だと思う。

・合理的配慮……多くの人に配慮の平等という視点を持っていただきたい。健常者は配慮を必要としない人ではなく、すでに配慮されている人である。障害者は特別な配慮を必要とする人というより、十分に配慮されてこなかった人だ。だから配慮の不平等を解消するためにこの法律が必要だった。解消法を活用して、障害のある人とない人が共に暮らす社会を作っていくために「建設的対話」がキーワードだと考えている。これは解消法の基本方針にも取り入れられた。

・合理的配慮の分かりやすい物差しを示してほしいという声もある……内閣府のウェブサイトにある「合理的配慮サーチ」には、事例が挙げられている。しかし、何が合理的配慮にあたるのか、何が過重な負担なのか、といったことは一義的に決められるものではない。事細かくルール化するよりも、現場で良い方法を一緒に考えていくことが大事。徐々に共通感覚ができてくるのではないか。

・われわれの日常生活にも関わってくるのだろうか……「義務」というと強いられるようで嫌だと戸惑うかもしれないが、今まで「善意」でやってきたことを法律の形で整えた、と考えてはどうか。合理的配慮がある社会は、安心で、共感力があり、そういう社会の一員であるのは悪くない。「誰もが生きやすい社会を作っていく」という法の趣旨を一人一人が実感できるようになってほしい。

・20年には東京パラリンピックがある……世界から多様な人たちがやってくる。多様な人が住みやすい街づくりを進めていくチャンスだ。半世紀前の前回大会は、戦後の高度成長が始まり、皆が未来への夢を共有していた時期だった。今度は、多様な人々が共に生きる社会のイメージを皆で膨らませ、実現していくプロセスになる。そのための建設的対話が始まることを期待している。