映画館もバリアフリー 音声ガイドやメガネに字幕  「差別解消法」が後押し

2016/06/09

読売新聞 2016年5月25日

 目の不自由な人も一緒に映画を楽しんでもらう取り組みが広がっている。画面が見えなくても、映画館で親しい人と感動を共有したいと思う人は多い。4月に施行された差別解消法を受け、国もそうした取り組みへの補助に乗り出している。
 5月中旬から東京や愛知で上映されている映画では、目の不自由な人にはセリフの日本語吹き替えと、人物の動作情景を説明する音声ガイドが聞けるようになっている。スマートフォンなどの端末に専用アプリを入れてイヤホンで聞くので、一般客には聞こえない。
 配給会社「ムヴィオラ」(東京)によると、製作費は余分に約170万円かかった。社長の武井みゆきさんは「映画館で映画を見る面白さを一人でも多くの障害者に味わってもらえたら」と話す。今後、大阪、京都、神戸、広島など全国約50館で上映予定だ(www.moviola.jp/diaries2016/)
 音声ガイドの制作を手がける会社「パラブラ」(東京)によると、従来の音声ガイドと違って、アプリの場合は上映中の技術者による操作が不要。この1~2年で広がり、昨年は6作で試験上映された。
 一方、耳の不自由な人向けには、邦画に字幕をつける手法が一般的だ。ただ、字幕付き上映は期間限定で、耳の不自由な人が楽しめる時間や上映回数は少ないのが現状だ。
 最近は、メガネ型端末を装着した人にだけ字幕が見える仕組みが一部で導入されている。これなら一般客と並んで楽しめるのだが、コストが高いこともあり、あまり広がっていない。
 経済産業省が2015年秋に調査したところ「見たい日本映画の映画館での鑑賞を諦めた」ことのある人は、視覚障害者で54%、聴覚障害者で85%に上った。視覚障害者の中にも、「映像中心の映画はわかりにくい」などの声があった。パラブラの松田髙加子(たかこ)さんは「親しい人と一緒に話題作を見たり、感想を語りあったりしたいのは障害者も同じ。誰もがともに楽しめる映画を増やしたい」と話している。
 こうした取り組みの背景には、障害者差別解消法が施行されたこともある。文化庁は同法成立後の14年度から日本映画の字幕制作1本につき上限100万円の補助を始めた。補助を受けた作品は14年度が32作、15年度で33作。今年度からは視覚障害者向けの音声ガイド制作も補助の対象となった。目の不自由な人も映画館で映画を楽しめる機会が増えそうだ。