失語症 理解と支援が足りない

2016/05/17

毎日新聞 2016年5月13日

社説

 脳卒中や頭部のけがによって言語機能に障害を持つ失語症の人は全国に30万~50万人いるとみられる。
 だが、外見からはわかりにくく「見えない障害」「隠れた障害」とも言われ、社会の理解が進んでいるとは言い難い。
 厚生労働省は一昨年から全国規模の生活実態調査を進めている。今年度末にまとまる結果を踏まえ、十分な支援策を講じてほしい。
 失語症の人は、言葉を聞いたり文字を読んだりして理解することがスムーズにできず、話すことや書くことにも障害がある。重度の場合は人との意思疎通が難しく、日常生活で常に支援が必要だ。
 しかし、他の身体障害に比べても公的支援は足りない。
 現行の身体障害者手帳の制度では、どんなに重度であっても失語症のみの障害では「3級」までしか認められない。最も重い「1級」となるのは他の体の障害などと併せて認定された時だけだ。
 こうした等級が定められたのは1954年、つまり半世紀以上前のことだ。認定の基となった当時の医学的知見などは現在と大きく変わっている。患者・家族の団体から障害の認定を見直すよう求める声が出るのは当然だろう。専門家からも同様の意見は少なくない。
 障害年金の等級についても、失語症単独では「2級」までしか認められていない。国は見直しを検討すべきではないか。
 就労の支援も不十分だ。働き盛りの30~50代に失語症を患う人が多く、仕事を失うと本人ばかりでなく、家族の生活がきわめて厳しくなる。職場復帰できる割合もほかの障害と比べて低いといわれる。
 失語症は適切なリハビリを続ければ症状が改善されるケースが多いとされる。
 国はリハビリ施設などを充実させ、本人の特性や能力に合わせた支援ができる体制を整えてほしい。再び仕事につけることは社会にとっても望ましい。
 失語症の人には、外出した時などに意思疎通をサポートする人も欠かせない。
 千葉県我孫子市や三重県四日市市では、失語症に関する知識と意思疎通の方法を学んだ「失語症会話パートナー」を養成し、派遣する事業を行っている。
 厚労省はこうした事例を参考にほかの自治体にも広げていくという。積極的に進めてほしい。
 2020年には東京五輪・パラリンピックが開催される。国がバリアフリー社会を本気で実現していくのであれば、失語症の人への支援もなおざりにしてはならない。