障害者と国会  当事者の声に耳傾けよ

2016/05/16

朝日新聞 2016年5月15日

社説
 衆議院の厚生労働委員会で筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の岡部宏生さん(58)が参考人として意見を述べることに決まったのに、一転、取り消されて出席できなくなった。
 岡部さんを参考人に推薦した民進党は、岡部さん側に「コミュニケーションに時間がかかるとして、与党の了解が得られなかった」と説明。一方、与党側は「障害を理由に拒否したということはない。民進党が参考人を変更した」と反論している。責任のなすり合いは見苦しい。
 はっきりしていることは、国会から正式に委員会への出席をお願いされた人が、一方的にそれをほごにされ、意見を述べる機会を奪われたという事実だ。
 与野党とも、まずはこの非礼を岡部さんに謝罪し、これから行われる参議院の審議の中で話を聞く機会を設けるべきだ。
 ALSは、運動神経の障害で、体を動かしたり呼吸したりする筋肉に脳からの命令が伝わらなくなる難病だ。岡部さんは10年前に発症し、09年から人工呼吸器をつけて生活している。口頭での会話はできない。
 だが、まず口の形でヘルパーに母音を読み取ってもらい、例えば「あ」段ならヘルパーが「あ・か・さ・た・な…」と順にあ段の文字を言い、岡部さんが伝えたい文字を目で合図する。そうやって1文字ずつ積み上げて文章を作り、コミュニケーションをとっている。
 この方法で岡部さんはこれまでも各地で難病患者支援について講演するなど、幅広く活動してきた。「国会という場でこのようなことが起こり、ショックです」と話す。
 岡部さんには国会への出席に強い思いがあった。審議中の障害者総合支援法改正案には、岡部さんのように会話が難しい難病患者のコミュニケーション支援のため、日頃から慣れたヘルパーの付き添いを入院中も認めることが盛り込まれている。「私たちがずっと求めてきたものです。会話ができないと思われている人でもこうしてコミュニケーションをとることができること、そのために専門性を持ったヘルパーがどれだけ重要かを実際に見て、知ってほしいのです」
 岡部さんの講演に来る聴衆は、時間をかけ発せられるメッセージに耳を傾ける。同じことを国会議員ができないというのでは、あまりに情けない。
 「二度とこのようなことが起きないよう改善してほしい」。岡部さんの訴えを、国会は重く受け止めねばならない。