
読書 誰もが楽しめるように 「合理的配慮」 図書館や出版社にも
朝日新聞 2016年5月9日
視覚障害者や読字障害の人、高齢者ら、読書に困難をかかえる人がたくさんいる。誰もが読書を楽しめるようにするにはどうすればよいだろうか。4月に施行された障害者差別解消法では図書館や出版社にも合理的配慮が求められている。新たな動きや課題を紹介する。
障害者差別解消法で、行政機関は合理的配慮が義務になった。身近な公共図書館もだ。2011年に改正された障害者基本法でも、情報を得たり利用したりする手段を広げることが求められており、野口武悟専修大教授(図書館学)は「障害がある人の情報保障に果たす図書館の役割は大きい」と指摘する。
日本図書館協会は3月に、差別解消法についての「ガイドライン」を作った。 合理的配慮の例として、手話や点字などで意思疎通をしやすくすることなどを挙げたり、大きな活字の本や音声図書、障害があっても読みやすい電子書籍など読書を助ける機器や環境の整備も求めている。
音声・点字で貸し出しも
大阪府枚方市のあんま師・三浦秀樹さん(61)は30代で眼病を患って視覚障害になった。同市立図書館の視覚障害者向けのサービス「音声図書」を活用して、読書を楽しむ。希望する本を持っていき、音声図書にしてもらうこともある。「ここになければ全国から取り寄せてもらえる。親切、丁寧で満足しています」と話す。年4回、音声版の図書館便りも郵便で届く。
だが、全国どこでもそうしたサービスが受けられるわけではない。2010年の国立国会図書館の調査では、障害者サービスをしているとする図書館の割合は約66%。上記の「ガイドライン」づくりに関わった日本図書館協会障害者サービス委員会関西小委員会の杉田正幸委員長は「サービスをしているのは東京や大阪が中心、基本的なサービスをどの図書館でも受けられるよう、法制定をきっかけに取り組んでほしい」と話す。
音声図書や点字図書などのデータを集めて図書館に送り、障害者の読書環境づくりで大きな役割を果たしているのは「視覚障害者情報総合ネットワーク『サピエ』」だ。昨年12月時点で約25万点を収蔵している。視覚障害者だけでなく、読書に困難のある人なら広く使える。
各図書館は、利用者から申請があればサピエから希望の資料をダウンロードし、CDや点字図書などに仕上げて貸し出す仕組み。だが、サピエのネットワークに入っている図書館は4月現在で約3千ある公共図書館の4%程度。サピエを運営する全国視覚障害者情報提供施設協会の藤野克己事務局長は「ぜひサピエを活用し、読書が困難な人にも開かれた図書館を目指してほしい」と呼びかける。
電子書籍読み上げ 期待 ソフト改良の費用・漢字の誤読 課題
印刷された文字を読むのが難しい、上半身の障害で本が持てない、…読書に困難があるのは視覚障害者だけではなく、1千万人規模にのぼるとの試算もある。中途失明の人は点字を読めない人が多く、音声による図書も必要になる。
音声図書づくりを担っているのは主にボランティアだが、ボランティア頼みには限界がある。そこで、これから期待されるのが電子書籍を読み上げる技術だ。今のところ普及には課題が多い。静岡県立大客員教授の青木千帆子さんは、インターネットで電子書籍を販売している主な書店を対象に調査を行った。読むために使うソフトの問題などで、大半が音声では読書を楽しめないといい、「ソフトの改良にはコストがかかるが、誰もが等しく読書の機会を得られるようになるためにも、音声読み上げへの対応が必要です」と言う。
また、様々な読み方がある漢字の読み間違いをどう防ぐか、数式などをどう読ませるか、なども壁になる。
日本電子出版協会ビジネス研究委員会の岡山将也(のぶや)委員長は、電子出版にかかわる企業などでつくる「電子出版制作・流通協議会」と協力し、正しく読み上げられる電子書籍を手軽に制作できる技術を研究しており、読み間違いが起こる部分の読み方を辞書で指定することで、異体字や数式なども正しく読ませることができるという。今後さらに改良を進めるという岡山委員長は「障害者や高齢者ら、読書に困難を感じている方はたくさんおり、読み上げが普及すれば、そうした人も読書を楽しめるようになる。出版社もぜひ関心を向けてほしい」と話す。





