ご乗車 手話で快適に

2016/04/24

朝日新聞 2016年4月6日
 
 多くの人が使う鉄道。その中には、聴覚に障害がある人もいるが、外見からは不自由さはわかりづらい。どんな時に困っているの?手を差しのべるタイミングは?少しでも相手のことを理解できればとの思いを込めた取り組みが広がっている。

大阪市営地下鉄 御堂筋線8駅 紹介する動画
 えきのうめだのうめ、しゅわであらわすほうほう おしえてほしい
 ぎこちない手話で横川隆吏さん(40)が尋ねると、東伸二さん(66)が酸っぱいものを食べたときの表情をしながら手話で返した。
 おべんとうのうめといっしょ
 横川さんは大阪市営地下鉄の運転士、東さんは幼いころから聞こえない。御堂筋線8駅の名前を手話の寸劇で紹介する動画「大阪地下鉄の手話」を演じる。冒頭はそのワンシーンだ。動画は横川さんら運転士と駅員計4人の「チームもぐら」が手がけ、昨年1月からインターネットで流す。
 地下鉄で通学する聴覚障害児の父親と出会い、チームを結成。聴覚支援学校で電車のマナー教室を開いたり、絵や文字を指して意思疎通ができるボードなどを駅の見えやすいところに置くよう職場で働きかけたりしてきた。運転士の田里義宣さん(41)は「みんなが安心できて親しめる鉄道にしたい」と話す。
 生まれつき耳が聞こえづらい古谷純一さん(14)=大阪府立中央聴覚支援学校中学部3年=は「鉄道好き」で、動画にも出演した。月1回電車の仕組みや運転の苦労を田里さんらに教えてもらっている。古谷さんの今の夢は電車の運転士。一定の条件を満たした聴覚障害者がバスやタクシーを運転できるようにする道路交通法施行規則の改正案が昨秋まとめられたと知り、うれしかったという。先月27日には、「壁を打ち破る!」をテーマにした大阪市内での発表会に同じ聴覚障害の子どもたちと参加し、鉄道会社のバリアフリー対策を提案した。「チームもぐら」もこれまでの活動を発表した。
 
阪神・南海  社員有志、態勢つくり
 阪神電鉄では2009年、有志社員が「手話コミュニケーション部」を立ち上げた。さまざまな部署から30人余りが集まり、昼休みなどに活動する。
 講師を務めるのは、高校生の時に耳が聞こえづらくなったという人事部の渡部安世さん(36)。経験を踏まえ、日常で使える手話を教えるほか、既存の教本には載っていない鉄道用語の表現方法を部員と一緒に考えている。千船駅(大阪市)に聴覚障害者と駅員がコミュニケーションをとれるモニター付き端末が試験導入された際、渡部さんは改良点を指摘した。「事業への参画は障害者の自信につながります。聞こえない人を想定した鉄道のサービスを提案していきたい」
 南海電鉄は難波駅構内の一室で月2回、08年に作られた手話クラブ「シュワッチ」を開く。参加者は毎回20人ほどで、中にはライバル社の社員も。人事部の内藤あづささん(41)は「耳が聞こえない人の困りごとや解決策をそれぞれの現場で伝えられたら」と力を込める。
 シュワッチは昨年12月、聴覚障害者に必要な情報を分かりやすく伝えられるように「●●で事故がありました」「電車が■分遅れています」などと書いた例文ボードを作成。今は全駅に配られている。
 06年のバリアフリー法施行を受け、乗車券販売所や案内所に筆談用具が置かれるようになった一方、手話ができる駅員はまだ少ない。聴覚障害者の自立を支援する「デフサポートおおさか」の副理事長・稲葉通太さん(56)は「書けば伝わると思われがちですが、主に手話を使っている聴覚障害者の中には長文に不慣れな人もいます。企業で手話が社員研修の一つになればうれしい」と期待している。