
障害者と就労(下)
朝日新聞 2016年4月7日
輝ける環境づくり 企業も成長
神奈川県鎌倉市でクリニックを開く精神科医の玉井洋一さん(79)は数年前、勤め先で「おまえは、必要だから雇われているのではない。法律があるからいさせてやっている。」と言葉を投げつけられたという身体障害者の女性の心のケアをしたことがある。
仕事が簡単で悩む障害者や、負担が重過ぎるのにサポートがなくて仕事を続けられない人もいた。障害者雇用は、ただ数が増えればいいわけではない。
企業が達成すべき障害者雇用率は徐々に引き上げられ、働く障害者は増えている。「義務があるので『量』は伸びているが、今後は『質』が心配だ」。障害者雇用に詳しい大妻女子大教授の小川浩さん(57)は話す。
特に精神障害者らは、表面上はストレスを抱えていることが分かりにくいなど時間がたってから問題がわかることも多く、職場のケアは「専門家との連携が不可欠」(小川)
支援は、プロでも簡単ではない場合もある。就労支援機関「就業・生活支援センターWEL’S TOKYO」センター長、堀江美里さん(48)は、相談に乗っていた発達障害者に「会社の手先だ」と誤解されたこともある。「企業と障害者が、互いに義務や権利ばかりを主張して疲弊してはいけない」。就労が広がっていく局面だからこそ、個々のケースに応じた丁寧な対応が必要と指摘する。
「量と質」のバランスが問われる障害者雇用だが、厚生労働省の担当課長だった山田雅彦さん(50)は、自身が手がけた精神障害者の雇用義務化に絡み、「まず量の拡大に重さを置くべきだとあえて言う」と記した。「知的障害者は雇用義務化で雇用管理の改善も進んだ。そうした展開を期待できるとの思いがあった」
挑戦から生まれた希望もある。山梨県に本社工場を持つ天井クレーン製造、キトーの障害者雇用率は法定の2%を大きく上回る6.41%。社長の鬼頭芳雄さん(52)が「会社は社会の器である」と、5年前から障害者雇用に取り組んだところ、副産物もあった。知的障害者らが仕事を覚えやすくするため、使う順番に部品に番号を振ったり工程表に写真を使ったりと、わかりやすく業務手順を見直した。その結果、全体の作業効率が上がり、不良品や労災も減った。鬼頭さんは「障害者雇用は経営者のやる気次第」と話す。
静岡市で鍼灸を手がける弱視の女性(51)は、かつて情報サービス会社の子会社で人事制度づくりを任された。仕事は深夜に及び、心配して職場に抗議しようとする親を自らなだめて、やりがいのある仕事に打ち込んだ。彼女に仕事を任せた当時の幹部、秦政さん(74)は今、NPO法人障がい者就業・雇用支援センター理事長。「配慮は大切だが、過剰な思いやりはやる気をそぐ。やりたい人が力を発揮できる環境づくりをしてこそ、企業と障害者は共に成長できる」





