となりの障害 吃音とともに(下)

2016/03/28

毎日新聞 2016年3月19日

話せないから解雇
 東京都内の自営業の男性(35)は、6年前、入社後1カ月で、上司に「退職届を作ったから名前を書いて」と告げられた。吃音があり、電話で会社名を言おうとすると詰まってうまく話せないことを理由にした事実上の解雇だった。
 今の仕事はメールでのやり取りがほとんどだ。吃音のことは仕事相手や周囲の人に話していない。「吃音のことを知らない人ばかりだし、話したからと言って自分の症状がなくなるわけではない」
 就労は吃音のある人の多くがぶつかる壁だ。書類選考で通っても、面接で困る人もいる。吃音のある人でつくるNPO法人「全国言友会連絡協議会(全言連)」のアンケートでは、263人のうち4人に1人が「就職活動で非常に苦労した」と回答した。
 マニュアルで決められた応対文句や会社名などは言い換えられず、就職後も電話対応などに悩む人は多い。全言連の松尾久憲理事長(65)は「公表しても偏見を持たれるだけかもしれないとの不安がある。電話応対の代わりに別の業務を担ってもらうなどして、その人の能力が評価されれば、吃音があっても働きやすくなる」と指摘する。

障害者手帳取得し
 症状が重い人の中には、障害者就労を目指す人もいる。新潟県十日町市の男性(52)は「ことばの一部を繰り返す「連発」と、言葉に詰まる「難発」の重い症状がある。専修学校を卒業後、地元企業で事務職に就いたが、電話でも対面でもうまく話せず、必要なことを上司に尋ねることもできなかった。解雇されたり自分から辞めたりを繰り返し、計9カ所の職場を転々とした。2007年以降は両親の介護に追われ、職に就けていない。年齢的にも再就職は厳しいと感じる。
 14年秋、「にいがた言友会」を通じて、吃音で精神障害者手帳を取得できると知った。心療内科を受診し、15年6月、精神障害者手帳を取得。現在は障害者就労枠で就職活動中だ。「仕事では話すことを避けられない。一般就労が難しい人は障害者就労という選択肢があることを知ってほしい」

付き合い方見つけ
 埼玉県の大戸彩さん(23)は、同県の子ども向けデイケアで言語聴覚士として働く。この仕事を目指したきっかけは小学校6年の時、吃音の治療に訪れた病院で出会った言語聴覚士の存在だ。大戸さんに「吃音とうまく付き合っていこうね」と語りかけた。同じ悩みを抱える人の言葉に気が楽になった。
 今も仕事で子どもの名前が呼べないなど苦労する。「吃音さえ治れば、もっと生きやすくなるのに」と思うこともある。でも、言友会の活動などを通じて同じ吃音のある人たちと悩みを話し合ったり、ストレスがたまってどうしようもないときは1人でカラオケに行ったりしながら、なんとか「吃音と付き合う方法」を見いだしてきた。いつか吃音のある子どもを担当する機会があれば「吃音を怖がらないで」と伝えようと思っている。