徘徊事故 家族に責任なし  JR賠償請求 最高裁判決

2016/03/04

朝日新聞 2016年3月2日

 愛知県大府市で2007年、認知症で徘徊中の男性(当時92)が列車にはねられて死亡した事故を巡り、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第三法廷(岡部喜代子裁判長)は1日、介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示した。

認知症の監督義務「総合的に考慮」
 今回は妻(93)と長男(65)は監督義務者にあたらず賠償責任はないと結論付け、JR東海の敗訴が確定した。高齢化が進む中で介護や賠償のあり方に一定の影響を与えそうだ。
 民法714条は責任能力がない人の賠償責任を「監督義務者」が負うと定めており、家族が義務者にあたるかが争われた。民法の別の規定は「夫婦は互いに協力する義務がある」とも定めるが、最高裁は「夫婦の扶助義務は抽象的なものだ」として妻の監督義務を否定、長男についても監督義務者にあたる法的根拠はないとした。
 一方で、監督義務者にあたらなくても、日常生活での関わり方によっては、家族が「監督義務者に準ずる立場」として責任を負う場合もあると指摘。生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ、との基準を初めて示した。今回のケースでは、妻は当時85歳で要介護1の認定を受けており、長男は20年近く同居していなかったことなどから「準じる立場」にも該当しないとした。
 JR東海は「最高裁の判断なので、真摯に受け止める」とのコメントを出した。

解説 介護現場の現状反映
 介護の担い手が「家族だから」という理由だけで監督義務者とみなされ、賠償責任を負うわけではない。最高裁の判決は、高齢化が進み「老老介護」などで家族が重い負担を強いられている現場の現状に即した判断と言える。
 同居家族であることなどを理由に賠償を命じた一、二審判決は、介護現場から「認知症の人の在宅介護を敬遠する人が増える」といった批判を浴びていた。
 一方で、今回初めて「監督義務者に準じる立場」の具体的な基準を示したことで、介護を担う人の年齢や能力、生活状況などによっては賠償責任が認められる余地も残した。解釈の幅は広く、個別のケースに判断を委ねた形だ。事故で損害を負うのは個人の場合も想定される。誰もが直面し得る時代に、社会全体で負担を分かち合う仕組み作りも急務だ。

 *このほかにも関連記事が複数掲載されている