障害者差別解消法施行を前に(下) 「参加できる社会」支援始まる~「合理的配慮」を巡って

2016/01/15

朝日新聞 2016年1月13日

 「合理的配慮」を巡って、公共施設や当事者団体の取り組みが始まっている。

演劇や音楽 楽しみたい ~ 上演の仕組み 丁寧に説明
 障害があっても演劇や音楽を楽しみたいという思いに応えようと、合理的配慮に取り組む劇場がある。
 堺市南区の国際障害者交流センター「ビッグ・アイ」が企画したのは、知的障害や発達障害がある人を対象にした劇場体験プログラム「劇場って楽しい!!」。昨年9月から11月に3回開き、保護者らも含め1回につき数百人が訪れた。
 劇場の暗さやブザーの音に不慣れな人がいるので、理由をあらかじめ説明する。開演後は、客席から音楽に合わせて歌声や手拍子が起こり、盛り上がった。
 大きな声を出すことがある小4男児の母親は、知らない人から「静かにさせろ」などと言われることもあり、一般の音楽会などに行く気になれずにいた。姉や弟らと一緒に鑑賞できればと願うこの母親は、「ビッグ・アイ」のようなところが近くにあればよいのですが」。
 小学1年の女児はブザーの音や暗さが苦手だったが、体験後に行った別の音楽会では、音や暗さにも慣れ、「2度目のブザーは始まる合図」と自ら説明し、鑑賞できた。母親は「いくつもあるハードルの一つがなくなり、子どもにも自信になる」と喜ぶ。
 国際障害者交流センター事業プロデューサーの鈴木京子さんは、知的障害の子がいる母親から「歌舞伎好きで本物を見せてやりたいが、迷惑をかけないか心配。劇場に慣れる練習ができないか」と言われたのがプログラムのきっかけと言う。今回は500人以上が申し込み、鑑賞したくても我慢している障害者がたくさんいることを実感。「他の施設にもプログラムを広めていきたい」。
 兵庫県尼崎市の県立ピッコロ劇団は昨夏、視覚障害者が楽しめる演劇公演を同市のピッコロシアターで開いた。解説者が舞台の様子、役者の表情や動きなどを、セリフの合間にイヤホンを通して音声で説明。約30人が劇を楽しんだ。
 音声ガイドで演劇を初めて楽しんだ女性(63)は「1人1人の衣装、誰が舞台に出てきたかの説明もあって楽しかった」。アンケートでも「またやってほしい」と寄せられ、今夏にも音声ガイド付き公演をする計画だ。

当事者に伝わる情報に ~ 分かりやすい表現へ指針
 「防災訓練で行き先を示した紙の内容が分からず立ち尽くした」「契約で内容が分からないままサインし、思ってもみなかった金額の請求が来た」「病院の診察結果の説明が難しくて分からない」-知的障害当事者らがつくる「ピープルファースト北海道」の土本秋夫会長(59)や仲間の体験だ。
 堺市の作業所で働く女性(34)も「役所などの手紙はルビがついていることもあるが、中身はわからないことが多い」と言う。わからないまま署名や押印を求められることもあり「とてもいや。きっちりわかるようにしてほしい」。
 自分たちに分かるように情報を伝えてほしい」。多くの障害当事者の願いだ。土本さんは「どんなことに困っているか、障害のことを知り、共に生きる社会に向かってほしい」と話す。
 全国手をつなぐ育成会連合会は、わかりやすく伝える参考にと「ガイドライン」を作った。絵記号や写真などを用いて工夫した本「LLブック」などを参考に、表現やレイアウトなどについて、例文をあげながらまとめた。
 ガイドライン作りに関わった、大阪手をつなぐ育成会事務局長の小尾隆一さんによると、マイナンバー制度についても、多くの知的障害者が「よく分からない」という反応だという。「せめてお知らせなどは、ガイドラインを参考に変えていってほしい」と訴えている。

問い合わせ先
●国際障害者交流センター ビッグ・アイ
  堺市南区茶山台1の8の1  電話072・290・0962
●兵庫県立ピッコロシアター、ピッコロ劇団
  兵庫県尼崎市南塚口町3の17の8  電話06・6426・1940
●全国手をつなぐ育成会連合会がつくった「わかりやすい情報提供のガイドライン」
  同連合会のホームページ(http://zen-iku.jp/)から見ることができる