
苦しみ救った勉強道具 学びを支える タブレットの可能性(中)
毎日新聞 2015年11月13日
●学習障害から不登校
奈良市立富雄南中2年、松谷知直さん(14)は読んだり、書いたりすることが極端に苦手だ。ディスレクシア(読み書き障害)と言われる学習障害の一種とされる。
知直さんにとって、明朝体で印刷された文字は、黒でも青くにじみ、ばらばらに動いて見える。「iPad」が「iPab」のように一部が左右反転して見え、「サイレント」は「サイトレン」と呼んでしまう。文字を書けば、左右逆の鏡文字になるほか、たびたび「へん」と「つくり」が逆になる。
小学校1年の頃は、漢字の書き取りができず、宿題は夜中までかかった。本は部分的に読むことしかできず、パズルを組み立てるように内容を推測した。
「ブラックホールや、素粒子、いろんなことに興味があったし、知りたいこともたくさんあった。本もたくさん読みたかった。でもどれもできなかった。自分のことをばかだと思っていた」
小学5年になると朝起き上がれなくなり、そのうち涙が止まらなくなった。その後、学校に行けなくなった。
●配慮ない場合も
2012年の文部科学省の調査によると、ディスレクシアを含む学習障害(LD)や発達障害など、知的発達に遅れはないが、学習面または行動面で著しい困難を抱える小中学生は推計で全体の6.5%とされる。中枢神経系に何らかの機能障害があるといわれているが、はっきりした原因はわかっていない。
さらに、この調査で、こうした児童生徒の約半数は、座席位置や宿題の提出方法など、特別な支援や配慮は受けていないことも明らかになった。
●僕はバカじゃない
知直さんがタブレット端末に出会ったのは小学5年の夏だった。東京大が運営する、障害を持つ子どもの学習支援プロジェクト「DO-IT(ドゥー・イット)Japan」に参加したことがきっかけだった。タブレット端末が発する音声を聞きながら画面の文字を追うと、内容がすらすらと頭に入ってきた。字が書けなくてもキーボードで入力したり写真に撮ったりすることで記録ができた。「僕はバカじゃない」。そう思えた。「僕にとってiPadはノートでもあり、教科書でもあり、鉛筆や消しゴムでもある。誰もが自分に合った勉強道具が選べるようになればいい」
当初通っていた小学校は「壊れたらどうする」「ずるいと言われないか」とタブレット端末の持ち込みを許可しなかった。母の真由美さん(41)は「読み書きをめぐる難しさは、視覚障害や肢体不自由とは違って客観的に測りづらい。頑張ればできることなのか、そうじゃないのか。先生たちも、その判断に戸惑っていたのではないか」と振り返る。
宿題に何時間もかかっていたころ、一緒に遊ぶ仲間はいなかった。タブレット端末が使えるようになって一番うれしかったことは友達ができたことだという。プログラマーになる夢をかなえるため、今は高校見学に余念がない。
●自分に適した方法を
小中学生にタブレットやICレコーダーなど、テクノロジー機器を使って新しい学び方を教える私塾も登場した。「ハイブリッド・キッズ・アカデミー」(東京都港区)だ。昨年4月にスタート、これまで延べ200人が受講し、今では毎週末全国から生徒が集まる。
松江市の市立小学校で教え、この私塾を視察に訪れていた井上賞子教諭(48)は「本来つくはずの力をつけられないまま学年が上がり、自己肯定感を持てずに苦しんでいる子どもたちがいる。そうなる前に、自分に適した学び方を知り、自分なりの学習をスタートさせることの意義は大きい」と話している。
学習支援をする主な団体
■ハイブリッド・キッズ・アカデミー
小中学生を対象にテクノロジー機器を使った学び方を教える(東京都港区)☎070・6400・4784 http://www.eduas.co.jp/buriki/
■DO-IT Japan
障害または病気を抱えた人材の育成(東京都目黒区) http://doit-japan.org/doit
■NPO EDGE
読み書きが困難な人たちのための相談を受けることなど(東京都港区) ☎03・6435・0702
■全国LD親の会
学習障害を抱える子どもたちの親の情報共有などをする会 http://www.japaid.net
■発達障害教育情報センター
全国の公的な相談機関などの紹介 http://icedd.nise.go.jp





