障害のある子の負担軽減  学びを支える タブレットの可能性(上)

2015/11/30

毎日新聞 2015年11月12日

 障害や困難を抱える子どもの学習を手助けする機器としてタブレット端末が注目されている。「iPad(アイパッド)」などのことで、表示された文字の大きさや色を変えたり、映像や音声を簡単に記録したりと、さまざまな機能がハンディを軽減してくれると期待されているからだ。

●黒板写し文字拡大
 東京都町田市の内田杏奈さん(7)は生まれつきの弱視で、視力は0.08。眼鏡での視力矯正は医師から難しいと言われている。母親の舞さん(29)は市外にある盲学校への入学も考えたが、兄が通う自宅近くの市立小学校を選んだ。
 しかし、杏奈さんは教室の最前列からも黒板の文字が見えない。「ついていけるだろうか」。舞さんの不安は大きく、毎日授業に付き添った。
 その不安を和らげるのがタブレット端末だ。視覚障害のある子どものため、市内の小学校を巡回指導する金子千賀子教諭(59)は、タブレット端末が発売された5年前ごろから、授業での活用を模索してきた。それまでは拡大専用器具で印刷物を拡大して見せていた。しかし、器具は何十万円もし、持ち運ぶには大きすぎるものが多かった。それらに比べタブレット端末は軽くて安い。操作も簡単だ。
 杏奈さんは週に4時間、金子教諭から個別指導を受ける以外は、同級生と同じ教室で勉強する。金子教諭は「タブレット端末のおかげで、杏奈さんの目にかかる負担を減らせている。黒板の文字を撮影してノートに書き写す余裕もできた。『これは1人でもできるから大丈夫』という自信につなげてほしい」と話す。舞さんは「障害があっても、こうして補えれば障害のない子どもたちと一緒に学べる。その可能性をもっと多くの人に知ってほしい」と訴える。

●わずかに動く指で
 重度の重複障害を持つ子どもたちの間でも、使われ始めている。
 小学部から高等部まで409人の障害児・生徒が通う、都立鹿本学園(江戸川区)を訪ねると、高等部2年の7人がタブレット端末の楽器アプリを使って合同演奏に挑戦していた。7人は筋肉の緊張や知的障害のため、本物の楽器を持ったり、鳴らしたりすることが難しい。軽快なBGMが流れる中、生徒たちは車椅子に固定したタブレット端末に手を伸ばし、わずかに動く指先を画面上で踊らせる。動きに合わせてスピーカーからエレキギターの音が鳴り響くと、笑顔を見せた。
 同校でテクノロジー機器を使った教育に取り組んできた水野吉丈主任教諭(52)は、「言葉によるコミュニケーションや手足を動かすことが困難な生徒たちは、必死にタブレット端末で音を鳴らそうと試みる。最重度の障害がある子どもたちの能動的な意欲を引き出すのにとても役立っている」と語る。

●国の補助制度も
 国は昨年度、特別支援学校に通う高等部1年の生徒がタブレット端末を購入する場合、学校が認めれば5万円を上限に補助する制度を始めた。今年度は2年生に、来年度は全学年に対象を広げる予定だ。
 一方、文部科学省によると昨年度、この補助を申請したのは2158人と、対象生徒の10分の1にとどまる。鹿本学園は、年間指導計画の中にタブレット端末の授業中の使用を明記し、この制度について保護者向け説明会を重ねた。その結果、対象生徒の約9割が購入した。しかし、このような事例は全国でも一握りだ。
 自閉症の長男(16)のために、制度を使ってiPadを購入した練馬区の三宮直也さん(42)は「まだタブレットを学校教育の中でどう使ったらいいのかわからない教師も多い。粘り強く家庭から要望を伝えるべきだ。それがお互いを良くしていく一歩になる」と指摘する。