失語症支援 浮かぶ地域差

2026/09/29

日本経済新聞 2026年9月11日

事故や病気で脳が損傷して起こる言語機能の障害・失語症の人への支援が十分に拡がっていない。

NPO法人が運営する失語症支援施設「すももクラブ」(大阪市淀川区)、約10人の通所者に言語聴覚士が質問を投げかけ、通所者は自分の考えを紙に書いたり、ゆっくり話したりして答えを返した。約20年前に脳出血が原因で失語症になった男性(69)は「最初はほとんど何も伝えられなかった。長年のリハビリで少しずつ会話ができるようになった」と話す。

失語症は、判断力や記憶は保たれるが「話す」「聞く」「書く」「読む」ことが思い通りにできなくなり、他者とのコミュニケーションなどに困難を伴う。署名ができない、アナウンスが聞き取れないという人もあり、日常生活に支障をきたす例が少なくない。しかし、社会的認知度は高いとは言えない。すももクラブ管理者の大槻美保さんは「外見からわかりづらく、症状も様々で、一般には理解されにくい。言葉の言い間違いなどの症状から認知症と誤解される場合もある」と語る。

リハビリは国家資格者の言語聴覚士が担うが、多くは病院などに勤務しており、日常生活までサポートするケースは少ない。家族以外で普段の生活を支える存在としては「意思疎通支援者」が頼りだ。障害者総合支援法に基づき、各地の自治体が養成し派遣する。障害の特性や支援方法によって、聴覚障害者向けの「手話通訳者」「要約筆記者」、「盲ろう者向け通訳・介助員」、「失語症者向け意思疎通支援者」といった種類がある。失語症者向けの意思疎通支援者は研修を修了すれば活動できる自治体が多い。通院や買い物、行政手続きなどに同行する。

ただ各地の体制は十分に整っていない。厚労省によると全国の都道府県と政令市、中核市の計129自治体のうち、2024年度時点で失語症者向け意思疎通支援者を派遣しているのは4割にとどまった。ほかの障害では7~8割に上るのに対し、手薄さが目立つ。日本言語聴覚士協会によると同支援者の登録数は2025年度で全国に657人しかいない。派遣が始まったのも2019年度で、他の障害より日が浅い。4月に施行された高次脳機能障害者支援法では失語症も対象に含まれた。各都道府県に拠点となる「支援センター」の指定を促すなどし、切れ目のない支援体制の構築を目指す。目白大の立石雅子名誉教授(言語聴覚学)は、法整備により今後の支援拡充が見込めるが、対応が遅れてきたことで苦しんできた当事者は多いと指摘。まず実数調査をきちんと把握し、意思疎通支援者を増やしていくことが重要だと話す。